戦国

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出立の準備はあわただしく行われた。

この世界に着てきた着物はぼろぼろで、とてもではないが、信玄公と会うには不向きと判断されたらしく、新しい着物が与えられた。

しかも、かなりの数になる。

いつの間にこんなにも多くの着物を用意していたのだと驚いてしまった。


「こちらでござる。」


幸村の後についていくと、そこにはすでに何人かのお供がいた。

仰々しいと思ってしまうのだが、これがここでの普通なのだ。

幸村は城主。
あっちの世界で言えば・・・・どれぐらいだろう?
知事とかなのかな、と少し疑問に思った。


「こちらが、朔殿が乗る馬でござる。きちんと手綱はもっておるゆえ、安心してくだされ。」


馬の隣に立った男が深く頭を下げた。
その人物に会釈をする。

轡に足をかけて軽々と馬に跨って見せると、手綱をもった男は少し驚いたようにこちらを見てきた。

おてんばだとか思われたのだろうか・・・・
それとも、まだ乗ってはいけなかったのだろうか・・・・・

不安になって男を見ればばっと視線をそらされた。


・・・・・なんだかショックだ。


「朔殿は、身軽でござるな。」
「え・・・そうかな?」
「うむ。そのように馬に身軽に乗るとは思わなかったでござる。
一人で乗るのは初めてなのでござろう?」
「うん、そうだけど・・・・。」


もしかして、馬への乗り方がまずかったとか?

急にこわくなって幸村のことをじっと見る。


「初めてでそのように身軽に乗るものはあまり珍しくてな・・・。怖くはないでござるか?」
「うん、怖くないよ。」


なんで怖いなんて思わなくてはいけないのかがわからない。

だから、本当のことを言っただけなのに、幸村は少しだけ驚いたような顔をした。

それからすぐにふわりと笑った。


「ならば、よいのでござる。この者は十蔵という。」
「十蔵にございます。」
「よ、よろしくお願いします。」


そばにいた馬に幸村が乗ると、出発となった。

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