戦国うたたね
□宣戦布告
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彼女とは小学校からの幼馴染だった。
明るくて活動的で、一緒にいてとても楽しい相手で、卒業式の後、仲良し3人でご飯を食べに行ったとき、それとなく好きな男のタイプをきいてみた。
小5で転校してきた彼女に惹かれるのはそう遅くはなかった。
彼女はすぐに口に出す、おまけに口が悪かった。
思いやりのかけらもない。
気遣いができないのか、そこまで気がまわらないのかはわからない。
だが、はっきりとこう答えた。
「えー、理想のタイプ?うーん…まず、自分よりも背が高くて、マッチョで、イケメン!」
背の小さい自分には何とも酷な答えだった。
「し、身長で男の価値を決めるなど、世の中の背の小さい男をなんだと思ってるんだ!!」
「えー、だって、背の高い人のほうがいいんだもん。」
「な、なら、もしも、だ!自分よりも背の小さい男に告られたらどうするんだ!?」
「断るにきまってるじゃん。」
しれっと答えた相手。
この時のことは今でも覚えている。
心にグサリときた。好きな女に見た目だけで振られるとかひどい。
もっと中身も見てくれ!と叫びたくなった。
そして、三成のあの憐れむような視線も忘れられない。
中学も同じだった。
身長はそんなに伸びなかった。
身長が高くなるという噂のバスケ部に入ったものの、自分の身長は相変わらず茜よりも小さいままだった。
そして、同じバスケ部に入った茜の身長は7センチも伸びた。
差は開いたままだった。
高校は別々に分かれた。
高2のときに、同窓会があり、その時、自分は10センチ近くのびていた。
でも、相変わらず茜のほうが高かった。
なんでも、高校でまた3センチも伸びたらしい。
三成からの視線も相変わらずかわいそうなものを見るようなものだった。
まだあきらめていなかったのかと、言外に伝えてきていた。
それから大学に入って、でもお互いそんなに連絡を取ることはなかった。
成人式の日。
久しぶりに地元の友達と会った。
中学で分かれての記念撮影。
茜はいた。
薄い黄色の地に古典模様の描かれた華やかな着物。
黒い帯に金の刺繍が施されている。
真っ黒な髪の毛はきれいに結い上げられている。
背の高い彼女は目立つ。
そして、着物がよく映える。
凛とした佇まいも、人を圧倒する雰囲気も、ものすごくあっていた。
気軽に人に声をかけることを許さない、そんな雰囲気を出す彼女。
目を奪われた。
「茜?」
「あれ?もしかして家康?」
驚いたように目を見開いた茜。
ほんとはよくしゃべるのに、第一印象が怖すぎて誰も近寄ってこない。
そんなことを前に不満そうにもらしていたことを思い出した。
大学に入ってさらに自分の身長は伸びた。
今ではもう完全に茜の身長を越えていた。
下から見上げてくる彼女。
少しの優越感を得た。
「わぁ!久しぶり!しばらく会わないうちに大きくなったね!!」
そういって腕のあたりをバシバシとたたいてくる。
変わらない、彼女の反応。
大きくなったことを喜んでくれる。
……というよりも、親戚の子供が大きくなった時のような感じだ。
「大学に入ったら背がぐんと伸びたからな。これでようやく茜をみおろせるな。」
「なにそれ!悔しいんだけど!!」
笑いながら言っている茜。
彼女が小学生の時に言った言葉にようやく解き放たれた。
身長は抜かした。
筋肉も付けた。
それなりに顔はいいほうだと思う。
今なら、今ならもっと積極的になれる。
大丈夫。
何度も何度も自分に言い聞かす。
撮影が終わり、友達と話し終えたのか、さっさと会場を出ていこうとする彼女の後を追った。
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