海賊
□兄の心情
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「あ、いた」
甲板で談笑している隊長たちの中にマルコを見つけると、勢いをつけてとび蹴りをかます。
「…あぶねぇよい」
「あたってくれてもいいじゃん」
さすがは隊長というべきか、さらりとよけた。
そんな二人を見てイゾウがつぶやいた。
「なぁ、お前らってデキてんのか?」
よくいった!と心の中で盛大に歓声をあげたサッチだが、おくびにも出さないでいる。
当の本人たちはというと、顔を見合わせている。
「なんだそりゃ…」
「あぁ、なんかうわさになってるみたい。この前エースに言われて初めて知ったけど」
しかしながら、二人の反応はかなり薄いもんだった。
またかよい、とか面倒だよね、とか言っている。
「いやいやいや!なにエースに言わせてんだよアスナ!」
「え、なんで?」
誰から聞かされたっておんなじじゃん、というアスナ。
いや、そうなんだけれども、そうじゃない!
「……大変だな」
末の弟を思ってイゾウはそうつぶやいた。
「で、どうなんだ?」
「どうってただの噂じゃん。」
「ってかおまえらもっと反応しろよ!驚くとかあわてるとか!」
「…めんどいよい」
「どうせ言ったってみんな聞き入れてくれないし」
熱狂的なファンだったという噂を初めて聞かされた時は、アスナも訂正しようとしていたけれども、それが徒労に終わっているという事実から今回はとくになにもしないらしい。
それはそうなのだ。
だけれどもだ!だけれども!!
エースがかわいそすぎるじゃないか!!
「ま、噂ってのは半年もしたらおさまるし、暇つぶしがなくなったら何しでかすかわかんないのばっかのってるんだから、いいんじゃないの?」
「……年頃の娘としてアスナはもっとあわてたほうがいいんじゃねぇのか」
「気にしなけりゃ問題ねぇよい」
「おい!マルコ!!!」
アスナはこの際置いとくとしてもだ!!
マルコ!
お前はエースの気持ちに気づいてねぇのかよ!
という思いを込めてサッチはにらんだものの、やる気のなさそうな目をしたマルコはそのサッチの眼力に眉をひそめただけだった。
「なんだよ、サッチ」
「…お前、まさか……」
「??」
「おい、イゾウ…こんなことってアリなのか?」
「……まぁ、そういうこともあんじゃねぇのか」
いや、ねぇだろ!という突っ込みをのどもとでなんとかせき止める。
「サッチなんかおかしくない?」
「もともとだろい。で、なんか用があったんじゃねぇのかよい」
「あ、そうそう。面白い本持ってないかなって。マルコよく読んでるし」
「あー…けど、アスナは最近医療系のもんばっかじゃねえかよい。そういうのはねぇよい」
「いや、医療系のはいいよ。ナースたちの借りるからさ」
「じゃあ……ついてこいよい」
「はいはーい」
すたすたと船内に入っていく二人の後ろ姿を見ながら、イゾウは言った。
「なぁ、もしかしてマルコのやつ、エースのことわかっててやってんじゃねぇの?」
「は?あの二人は一回り年がちげえんだぞ?」
「いや、こうかわいい妹を手放したくないっつーか、懐いた犬猫を他人にやりたくないっつーか…」
((どっちにしろ、エースがかわいそすぎる))
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