海賊
□誕生日
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だが、エースの予想に反して、アスナは泣かなかった。
けれども、とても傷ついたような表情をしていた。
「……ごめん。知らなかったから」
うつむきながらそういうと、エースが持っている箱に手を伸ばしてきた。
そんな表情をさせたいわけじゃないのに。
伸ばしてくる小さな両手から守るように、エースは箱をアスナから遠ざけた。
「なにしてんの」
「……。」
「嫌いなんでしょ。だったら、ルフィにあげるから」
捨てるの、もったいないし。
そういったアスナ。
じわりと、涙で潤んだ目でエースを見るので、エースの胸がドクリとなった。
「き、嫌いじゃねぇ」
「嫌いって言った!」
「嫌いじゃねぇよ!」
「あ!」
ついていたフォークでケーキをすくうと、ばくりと、大きな一口をほおばった。
もぐもぐと、咀嚼すれば、アスナから痛いほど視線を感じる。
「……んだよ」
「どう?おいしい?」
「……まずくはねぇ」
「じゃあ、おいしいってことだね」
次の瞬間にはうれしそうに笑うアスナ。
さっきまで泣きそうだったのに、コロコロと表情が変わる。
あまのじゃくな自分のそばにも、きちんといてくれる。
「エースはいいね。生まれた日がちゃんとわかってて」
もぐもぐと、食べ続けるエースに向かってアスナがぽつりと言った。
「んだよ、お前わかんねぇのか?」
「うん。じいちゃんに拾われたから。しかも、じいちゃんったら、拾った日のこと忘れちゃってるんだもん、ひどいよね」
初めて聞く話に、エースは食べるのをやめた。
アスナは、ルフィの血のつながった姉だと思っていたのに、どうやら自分とルフィのような関係だったらしい。
「でもね、ある人が私に誕生日をくれたの。今日にすればいいって、そういってくれて、その日にお祝いをしてくれて、うれしかったなぁ」
その人物を思ってアスナはなつかしそうに目を細めた。
「ね、エース。お誕生日おめでとう!」
とびきりの笑顔で、生まれてはじめて誕生日を祝われた。
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