■そして、光へ
□1.それは穏やかな
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晴れ渡った青空、爽やかなそよ風。今日も天気がいいなぁ、と思いながら織は朝から廊下を歩いていた。
彼女の両手にはいつものように大量の書類がある。腕の中の書類の山を崩さぬよう器用にすれ違う人を避けながら、織は八番隊の隊首室へと廊下を急いでいた。
すると、見慣れた角刈り頭が向かいから歩いてくる。
「おはようございます。射場副隊長。」
「おぉ。青瀬・・じゃなかった。織か。」
「ふふっ。」
思わず笑ってしまうと、複雑そうな顔で射場は口を曲げた。
「こりゃ。笑うな!慣れないんじゃから仕方なかろう。」
「すいません。」
謝りながらも緩む顔は抑えられなかった。
織と狛村が入籍したのは一ヶ月前のこと。二人は式を挙げることはせず、あの日の夜静かに婚姻を結んだ。
結婚したことで周囲が驚愕と困惑していたことは二人にも伝わっている。もとより受け入れてくれる人ばかりではないと分かっていた。けれど祝福してくれた人達も沢山いて、そんな人達に囲まれながら、二人は穏やかに新婚生活をスタートさせていた。
入籍したとなれば当然青瀬織から狛村織に名前が変わる。そこで周囲が困ったのは彼女の呼び方だった。
この精霊邸で『狛村』と言えば当然狛村左陣のことを指す。護廷十三番隊に狛村が二人になったことで、彼女のことを今まで青瀬と呼んでいた人達は自然と『織』と下の名前で呼ぶようになった。
けれどたまに下の名前で彼女を呼ぶのを戸惑う人もいる。今回の射場のように。
テレをごまかすようにゴホンッと一度咳をして、射場は彼女の顔を隠しそうな勢いの書類の山に目を向けた。