■そして、光へ
□7.愛は幽玄なる狭間に―涙―
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冷たい朝の空気を頬に感じて、織は目を覚ました。まだ眠気は全身につきまとい、無意識に布団を手繰り寄せる。だが身に慣れたものとは布の感触が違う。不思議に思ってなんとか重い瞼を開けると目に入ってきたのは真っ白で高い天井。
(あぁ・・、そうか・・・。)
昨夜のことを思い出して織はだるい体を布団から起した。
作った牢の合鍵を使ってここに入り、狛村に会いに来たのだ。感触が違うのも当然。普段家で使っているような上等なものでなく、自分が寝ていたのは囚人用の布団なのだから。それでも布団はきちんと肩まで掛けられていて寒さは感じなかった。
全身に付きまとう倦怠感。どれだけの時間狛村に身を預けていたのか覚えていない。いつの間にか自分は意識を失っていたようだ。
明かり窓から降り注ぐ朝日に目を細める。牢の中を見渡した織は言葉を失った。
「左陣・・様・・・?」
いない。狛村の姿はこの狭い牢の中のどこにもない。
織の体は冷や水を浴びたような寒気に襲われた。
目に入ったのは自分を囲む真っ白な壁。そして正面には鉄格子。昨夜織が牢の中に入る為に使用した扉が――開いていた。
誰に言われなくても分かる。狛村はその扉から出たのだ。牢の鍵が開けっ放しだったら当然囚われた者はそこから逃げるだろう。そんなこと考えなくたって分かることだ。けれど、ここには織がいる。それなのに――
(届かなかった・・・・)
織の願いも、彼への想いも。その身を重ねれば狛村が自分のことを思い出してくれるのではないかというか細い期待は粉々に打ち砕かれてしまった。
布団の横に投げ出されているくしゃくしゃの死覇装が余計に織を惨めな気持ちさせた。