狛村 短編
□コマさんと一緒!
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沈む美しい夕日を見ながら、私は深い深い溜め息をついた。
下界に来て早三ヶ月。上官から下された下界常駐任務の期間は半年だから、やっと折り返し地点。私の居場所、尸魂界へ戻れるのはまだまだ先の事だ。
(あ〜、帰りたい‥。)
死後流魂街で過ごし、死神になった私は現世で生きていた時の記憶を持っている。里帰りのような気持ちでこの任務を楽しみにしていたのだが、早くも尸魂界が恋しくなっていた。早い話がホームシックである。
様々な娯楽施設や進んだ科学技術のある下界は確かに面白い。尸魂界には有り得ない鮮やかで可愛らしいファッションも私を夢中にさせた。けれどしばらくして気付くのだ。もう下界は私のいるべき世界ではない。いくら目新しいものが興味を惹いても、それを共有できる家族も友達も恋人もいないのでは意味がないのだと。
(いや、恋人は元々いないんだけどさ‥)
ボケるのも突っ込むのも一人で完結とは益々寂しい。
(今日はもう何も起こらなそうだし、帰るかぁ。)
担当区域内に虚の気配が無いことを確認して私は引き返した。
* * *
「ワン!」
借りているアパートの階段を登ろうとした時、小型犬特有の高い鳴き声が聞こえて条件反射で振り返った。思ったよりもすぐ傍に秋田犬が一匹此方を窺っている。私と目が合うと、そのワンコはトコトコと落ち着いた足取りで近づいてきた。
(野良犬?)
首輪がないのでそう思ったが、よく見れば毛並みはいい。自分で首輪を取って抜け出す賢い犬もいると聞くから、このワンコもそうなのかもしれない。
しばらく観察している間にワンコは私の足元まで来て、ちょこんとその場に座り込んだ。キラキラとしたつぶらな目が見上げてくる。
(こ、これは‥、明らかにエサを期待されている。)
犬だろが猫だろが、元々動物は大好きなのだ。例え自分が借りているアパートがペット禁止であってもこんな可愛いワンコならバッチコイである。
私は素早く左右を見渡し、管理人の目が無いことを確認するとワンコを抱きかかえて部屋に入った。