■そして、光へ

□1.それは穏やかな
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「今日も書類が大量じゃな。十一番隊は。」
「ははっ。相変わらずですよ。七番隊もお忙しいですか?」
「まぁ、忙しいと言えば忙しいが・・。」
「?」
「あ、いや。何でもないわい。」
「そうですか。それじゃ、私そろそろ行きますね。」
「あぁ。」

 射場の様子が気にはなったが朝から仕事が詰まっているのも頭にあって、射場に笑顔で挨拶すると織は目的の八番隊に足を向けた。



 織の後姿を見送って、射場は我知らずと溜息をついていた。

(隊長がおらんで良かった・・。)

 二人が結婚したのは当然嬉しい。二人から入籍の報告を受けた時は自分のことのように涙を流して喜んだものだが、最近狛村の機嫌が悪くて射場は胃の痛い思いをしていた。

 狛村の機嫌が悪いのは当然二人の新婚生活のせいではない。原因は周囲が彼女のことを『織』と呼ぶことだ。
 女性はともかく男性の同僚達が皆下の名前を気軽に呼ぶ度、それを聞いた狛村の機嫌が悪くなる。織本人は気付いていないようだが、一番身近にいる射場は狛村の静かな怒りを感じて冷や汗の毎日だ。
 射場が中々すんなり『織』と呼べない本当の理由はそれだった。二人だけの時ならともかく、隣に狛村がいる時など命がけだ。隊長格の怒りの霊圧など浴びていたら寿命が縮まるに違いない。

(ある意味、色ボケなのかもしれんが・・)

 二人の関係を隠していた今までなら、当然狛村が嫉妬の感情を表に出すことなど無かった。それを下の名前で呼ぶだけで不機嫌なるなんて考えようによっては幸せな証拠だ。

 しばらくは自分が耐えるしかないのだろうと、射場は諦めて肩を落とした。
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