■そして、光へ
□1.それは穏やかな
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目の前では十一番隊の隊員達が木刀を手に修練に励んでいる。
織も同じく目の前の隊員の剣を受けていた。相手は今年入ったばかりの新人隊員で、織にとって初めての後輩になる。
一筋縄ではいかない十一番隊は他の隊に比べて入隊する新人の数が少ないが、今回は三名の新人を迎えている。彼はその中の一人、葛城一誠と言った。
男女の差はあっても、織は十一番隊の席官。しかも今や九席にまで昇進している。新人隊員では到底敵う相手ではない。
織は正面から果敢に向かってくる葛城に対して、流れるような動きで木刀を払う。息一つ乱さず、稽古をつけていた。
「はぁ、はぁ。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
木刀を下ろすと互いに礼を交わす。すると先程までの真剣な表情とは打って変わって、葛城は親しみやすい笑顔を向けた。
「流石九席。手も足も出ませんでした!」
「鍛錬を積めば、葛城君もすぐに私を追い越せるよ。」
「いやいや、俺なんてまだまだですよ。」
荒くれ者の集団として有名な十一番隊。当然のように新人隊員達にとって織の存在が唯一の癒しになっていて、後輩達は皆彼女を慕っている。今日も葛城から稽古をつけて欲しいと頼まれたのだ。
「あっ!次は俺もお願いします。」
「俺も!!」
葛城との手合わせが終わると、他の新人も手を上げる。しかしそこで声が掛かった。
「おい。織。」
「あ、一角さん。」
呼ばれて振り返るとそこには片手で持った木刀で軽く自分の肩を叩いている一角が居た。彼は意地悪そうに笑って新人隊員達を睥睨する。すると彼に気付いた新人達は慌てて頭を下げた。
「斑目三席!お疲れ様です!!」
「おう。織、隊長が呼んでるぜ。」
「分かりました。ちょっと行ってきますね。」
「こいつらは代わりに俺が稽古つけといてやるよ。」
「はい。ありがとうございます。」
それを聞いていた新人達の顔色がサーッと青くなる。織が修練場から居なくなると実に楽しそうにニヤリと笑い、一角は新人達に木刀を向けた。
「さぁて、誰からやる?」