君のいる夏

□君の笑顔
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 突然思考に割って入ってきた男の声に、チャドは驚き顔を上げた。
 狭い個室の中には自分が寝ていたベッドの向かいに木製の二段ベッドが置いてある。その上段から顔を出したのは顔を包帯でぐるぐる巻きにしたミイラ男だ。お前こそ誰だ、と言いたくなる。だがそれを言う寸前で、ミイラ男の声とシルエットに見覚えがあることに気付いた。

「・・・。岩鷲か?」

 すると彼はぐいっと顔に巻かれた包帯を横に引っ張り、隙間から両目を覗かせた。

「おう!全く酷い目にあったぜ。お前の怪我は随分深いみたいだが、もう平気なのか?」
「あぁ。大丈夫だ。」

 胸の包帯の上に手を当てる。ここの死神達がどんな治療を施したのかは分からないが、あれほどの出血があった割にもう痛みはない。

「で?瑞希ってのは誰だ?」

 心の中でしか呟いていない筈の恋人の名前を再び出され、チャドはなんと答えたら良いのか分からなかった。岩鷲はそんなチャドの困惑に気付いたようだ。

「お前が眠ってる間に呟いてたぜ。瑞希、ごめんって。」
「そうか・・」
「お前の女か?」
「あぁ。」

 すると岩鷲はケッと吐き捨てるように言って口を尖らせた。そしてブツブツと何やら呟き始める。

「なんでこんなごっつい奴に女がいるのに俺はあんな野蛮な野郎どもにブサイクブサイクと・・・」

 岩鷲がお世辞にも整っているとは言い難い十一番隊隊員達に追いかけ回されていた事など知らないチャドは、それを聞き流し格子がはめ込まれた窓の外を見る。

(瑞希・・)
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