深遠の愛

□2.困惑
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「見合い、ですか。」

 狛村は差し出された見合い写真に目を落とした。
 恩人である山本総隊長が直々に自分に向けてくれた話だったが、それに応える声は重い。

「うむ。墨田家の者から話があってな。相手は墨田香織と言って現在五番隊で十三席に就いておる。なんでも墨田香織から是非に、との事らしくての。」
「・・・・。」

 墨田香織のことなら五番隊と仕事をした事があるから覚えがある。確か、栗色の長い髪をした妙齢の女性だ。
 けれど自分を気に入っている、とはどういうことなのだろうか。自分はこの体だ。まともに人として、増してや男として見られるなんて有り得ない。
 返事が出来ずにいると、山本総隊長が自分を見上げた。

「その気にはならぬか?」
「・・申し訳ありません。どうしても、その・・・。自分には家庭を築く姿など到底想像出来ませぬ。」
「そうか。無理もないかもしれないが。それでも儂はお主を一人の男だと思っておる。男ならば、女子と家庭を持つのも一つの選択肢であろう。」
「・・はい。」

 山本総隊長は自分とかつて九番隊隊長だった東仙要との関係を当然承知している。もしかしたら、自分に気を使って下さっているのかもしれない。そう思うと、無下に断わる事も出来ない。
 会ってみるだけでも、という総隊長の言葉に狛村は肯定の返事をして、一番隊隊首室を後にした。
 
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