深遠の絆

□5.共にある未来
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「左陣様。」

 森の中のいつもの場所。楢の木の根元に大きな背中を見つけて、私は声をかけた。
 けれど返事もなければ、こちらを振り返る様子もない。不思議に思って彼の顔を覗き込むと、その両目は閉じられ、浅く呼吸をしている胸が上下している。彼の日課である瞑想をしている訳ではない。その証拠にコクリコクリと首が揺れていた。
 私は左陣様と一緒に食べようと思っていた昼のお重の弁当箱を静かに脇に置く。

 左陣様は隊長。当然休日などほとんどないし、一緒に居ることの出来る時間を取る事も難しい。その為少しでも時間が出来れば、この場所で会うのが習慣になっていた。

 そのまま目を閉じて彼に寄りかかる。体の大きな左陣様に寄り添っても、残念ながら頭は肩に届かない。あまり体重をかけすぎないように注意しながら私は頭を彼の腕に置く。
 目を閉じると柔らかく肌に触れる風が心地よく、草木の揺れる音がまるで子守唄のように優しく聞こえる。隣には大好きな人。

 幸せな気持ちでしばらくそうして目を閉じていた。
 すると不意に肩に手が回される。私はそっと目を開けて彼を見上げた。

「起してしまいましたか?」

 左陣様は私を見下ろして、更にその手に力を籠める。先程よりも彼にぴったりとくっつくような体制になって、嬉しさと恥ずかしさでほんの少し頬が熱くなる。

「すまない。すっかり寝入ってしまっていたようだ。」
「いえ。居眠りしている左陣様も可愛かったですよ。」

 笑ってそう言うと、可愛いなんて言われ馴れていない左陣様は「またお主はそう言う事を・・」と顔を背ける。私が思わずくすくす笑えば、彼は少し拗ねたような顔をした。

「すいません。お昼、食べましょうか。」

 私が左陣様の腕の中から抜けようとすると、ぐっと太い腕がそれを遮る。不思議に思って私は再度彼の顔を見上げた。
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