狛村 短編

□赤ずきん
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 むかしむかしあるところに、心優しく美しいと評判の少女がおりました。彼女は町の人々に愛され、いつも外出時には赤ずきんを被っていたので、皆親しみを込めて彼女のことを赤ずきんと呼ぶのでした。


「赤ずきん。今日は私の代わりに十四郎さんのお見舞いに行って来てね。」

 そう言って烈お姉さんが赤ずきんにケーキとワインの入ったバスケットを渡しました。町で小さな病院を営んでいるお姉さんは忙しく、今日は十四郎さんのお見舞いに行けないようです。体の弱い十四郎さんはいつも赤ずきんに優しくしてくれます。すでに他界した親代わりに自分の面倒を見てくれる烈お姉さんのお願いを、赤ずきんは喜んで引き受けました。

「はい。行ってきます。」
「ちょっと待って、赤ずきん。」

 家を出ようとした赤ずきんを烈お姉さんは心配そうな顔で引き止めました。

「十四郎さんの家に行く途中に南の森を通るでしょう?あそこは最近悪いオオカミが出るって町の人たちが言ってたの。もしオオカミに会っても話をしたりしては駄目よ。道草しないで真っ直ぐ帰ってきなさいね。」
「分かったわ。姉さん。」

 少女と言っても赤ずきんはもう幼い子供ではありません。それなのにいつまで経っても烈お姉さんは自分のことを子ども扱いです。親代わりに育ててくれたのだから、きっと自分の子供のように心配してくれているのでしょう。そう思い赤ずきんは笑顔で頷いて、家の前で自分を見送る烈お姉さんに手を振りながら十四郎さんのお家へ出かけたのでした。
 
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