君のいる夏

□君の名前
1ページ/4ページ


 茶渡泰虎は体がでかい。制服から覗くその体には柔軟な筋肉がついていて、喧嘩が強くて有名な不良として周囲に認知されている。
 おまけに普段からあまり感情が顔に出ない彼はそれほど口が達者ではないので、一見何を考えているのか分からない。

 けれど彼と仲の良い者達からすれば大人で温厚、おまけに友情に厚い人物。そんな彼が不機嫌な顔をしているのは珍しい姿だった。



 チャドの目の前では彼の恋人、瑞希がクラスメイト達と共に笑っている。

 彼女と付き合い始めて順調な毎日を送っているチャドだったが、同時に瑞希はそれ以来自分を偽ることを止めた。伊達眼鏡もしなくなり、髪も中学の頃のように下ろしている。自分から生徒達に話しかけるようになり、最近学校が楽しいと零していたのはつい先日のこと。当然、以前の瑞希の苦しみを知っているチャドは嬉しく感じていた。

 だが、事はそれだけでは済まなかった。最近彼女の誤解が解け始め、笑顔が増えた彼女の偽りのない姿を見て、それまで関心のなかった周囲の男子生徒達の態度が変わり始めたのだ。
 何より彼女の笑顔を見て頬を染める生徒を見つけると、チャドの心に不快感が募る。

 あぁ。今日もそうだ。瑞希と冗談を交わす男子生徒の一人が嬉しそうに隣で笑っている。
 明らかに異性の目線で彼女を見ているその男子生徒を、チャドは知らず知らずの内に睨み付けていた。

「ひっ!!」

 当然彼が睨みをきかせれば一般生徒が太刀打ちできる筈もない。突然顔色を青くした彼を見て、瑞希は理由が分からず首をかしげただけだった。

「チャド。やめとけって。」
「ム・・・」

 男子生徒に同情した一護がポンッとその手を親友の肩に載せる。そこで初めて自分が睨んでいたことに気づいたチャドはいつもの穏やかな目で振り向いた。

「スマン。」
「いや、まぁ俺はいいんだけどさ。」

 気の毒なクラスメイトを横目に、一護は苦笑するしかなかった。
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ