corto.

□愛されていると思ってしまった
1ページ/1ページ



なんか通りが騒がしいな、と思いながらもしゃがみこんで今日仕入れて来た花を弄ってると、「なあ」と声が頭上から降ってきた。

頭を上げると、金髪に綺麗な瞳のお兄さん。
通りが騒がしかったのはこの人のせいだなー、と客観的に考えようと思ったけど、そういう私も彼に見惚れてしまっていた。
そんな私を知らずに、彼は「ここに書いてある花が欲しいんだけど」と言って手帳を切ったようなメモを私に渡した。
書いてあるのは、リコリス、黄色のマリーゴールド、ジニアの3つの花と、その数。
数が数だから花束にするのかと思ったけど、花言葉が微妙なのばっかりで。
聞いてみたら違うらしい。

花を簡単に包んで、彼の方を振り向くと、彼は綺麗に笑っていて、思わず言葉が詰まってしまった。
会計に出されたブラックカードに驚いて叫んでしまった私を咎めることなく、彼は花を手に店を出ていった。

…かっこいい。

どうやら私はどこの誰かも知らない人に恋をしてしまったようだ。


それから1週間、私はある事に気が付いた。
あのお兄さんは店の前の通りを毎日のように通る。
夕方だったり、昼前だったり、時間はばらばらだけど、毎日1回は通りを通る彼の姿を店の中から見ることができた。
でも、あれから一度も店内に入ることも、店を覗いてくれることもなかった。


「最近、なんだか楽しそうね?」

「そ、そうかな?」

「姉を甘く見ないことね、で?」


4つ歳の離れた姉が、紅茶の注がれたティーカップ片手に首を傾けた。
洗いざらし、紅茶とお菓子をちびちびと減らしながら、私は姉に話した。
出会い方、その人の見た目、毎日店の前の通りを通ること。
「王子様みたいな人だ」、私が最後に付け足すと、顎に手をやって、姉は考え込んでしまった。


「…金髪の王子様………」

「もしかしてお姉ちゃん知り合い?!」

「いや…金髪で王子様…みたいな人で、十代半ばの青年は知ってるんだけど…
かなり人付き合いがアレな人だから…"お嬢"以外の前では笑わないのよ。
まぁ…その人だったにしろ、別人だったにしろ、気をつけなさいよ?
あんた、男を見る目なさそうだし」


……姉が言っていた知り合いと私が恋しちゃってる相手は、多分別だと思う。
"お嬢"が何処の誰がかはしらないけど、あのお兄さんは普通に笑ってたし、人付き合いが苦手そうにも見えなかった。
…まぁ、通りを歩くお兄さんの顔に、感情はあんまり見えないけども。

そんなことを考えながら、母に頼まれたおつかいを済ませて店に戻ると、店先に見覚えのあるお兄さんが居た。
金髪に、整った横顔、綺麗な瞳。
そういえば、よくボーダーの服を着てるけど、ボーダー、好きなのかな。


「お、来た来た。
なぁ、今日やってないの?」

「え?」


お兄さんが指差したのは、店のドアの前にあるCLOSEと書いてある黒板。
この前私が買ってきたマスキングテープで黒板の裏に貼り付けられていた封筒を開けると、一言。

【ちょっと出かけてくるからお店よろしく(*´∀`*)】

…母よ、あんた歳考えてくれ。
口には出さなかったが、手書きの顔文字でしめられた一行レターに、内心でそう吐き捨てた。
鍵を使って店を開けてお決まりの「いらっしゃいませ」という言葉をお兄さんに向かって言う。


「白い薔薇と桔梗を中心に、花束作って欲しいんだけど。
女が軽く両手で持つ大きさで」

「白い薔薇と桔梗?
贈り物ですか?」

「さぁ?」


お兄さんは、私をジッと見ながら、軽く微笑んだ。
顔が熱い。
真っ赤になってるだろう顔を見られないように、薔薇と桔梗、それと他の花と選ぶことにした。

お兄さんと相談しつつ、花束を作り終え会計も済ませると、「なぁ」と花束片手にお兄さんは声をかけてきた。
ただ声をかけられただけなのに、ドキドキと煩く音を刻む心臓はもうどうしようもない。


「この辺に緑の多い公園とかない?」

「それなら、そこのケーキ屋さんを曲がった先に綺麗な公園がありますが…」

「そっか、Grazie」


* * *


母と一緒に帰ってきた姉におつかいを頼まれて郵便局まで行った帰り、なんとなくお兄さんに聞かれた公園まで足を運んでみると、噴水のフチに腰をかけて携帯を弄るお兄さんの姿があった。
その横には私の作った白と紫の花束。

声をかけてみようか…でも迷惑かもしれない…

考えながら少しずつお兄さん近づくと、彼は携帯のディスプレイを見ていた頭を上げて、私の方を見て、今までにないくらい綺麗に笑った。
花束を持って立ち上がった彼の姿に、顔の熱いのは無視して走り寄ろうと、した。


『ベル!』


大きくもないけど、小さくもない、凛とした女の人の声が私の後ろから聞こえた。
その声の持ち主だと思う長い金髪の女の人は、私の横をヒールをならしながら走って通り過ぎ、お兄さんの前で止まった。
腰に手を当てる女の人に向かって、お兄さんは笑いながらあの花束を渡した。
花束を受け取った女の人は、匂いをかぐように花束に顔を寄せた後、お兄さんの頬にキスを一つ。
そのお返しとばかりに、お兄さんが女の人の額にキスをする。

「バカップルがまたやってる」「まぁ、"お嬢"が幸せそうだしいいんじゃねぇか?」
そんな声が聞こえてきた。
しゃがみ込んで、耳をふさいで、目も閉じて、小さな子どもが泣いている様な無様な姿をしている私には、誰も声をかけてくれなかった。


「…所詮私はsetariaって事…」



愛されていると思ってしまった



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ