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共犯者[2]
P.M.9:00
連絡がないのはいつものことだ。
高杉が銀八と同棲してから2年になる。
何も聞かずとも、彼のすること、行く先は手に取るように分かる。
「ただいま」
声の調子は少しも変わらない。
後ろめたさのかけらもない。
彼にとっては土方とのことも、罪悪のうちには入らないらしい。
「飯」
第一声はまずそれだ。
すっとぼけた顔で堂々とキッチンに入ってくる。
「冷蔵庫」
「あっためとけ」
情のこもらない声をふっかけるだけで笑いもしない。
殺伐とはしてないが、無味乾燥だ。
「なあ」
そんなやり取りは習慣的になってしまったが、高杉は敢えて銀八の気に障ろうとする。
単に相手の気を引きたいのとはわけが違う。
身と心に、骨の髄まで滲みついてしまった、もっと歪んだものだった。
「どこ行ってた?」
「あ?」
知ってて聞いた。銀八がかったるそうに首だけ傾けた。
何でそんなこと聞くの?
そんな態度だ。
「別にどこだっていいだろ?」
聞かれて動揺した風ではない。
どうでもよさそうに、高杉を見下した表情で返す。
「遅かっただろ」
「それがどうした」
声音が不機嫌になる。
「お前には関係ねえだろ。いちいち俺のすることに口出しすんな」
「………」
「お前は黙って俺の帰りを待って、俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ」
「は?何だよそれ…」
無茶苦茶だ。怒りが込み上げるのは自然な反応だ。
「勘違いすんなよ…」
「何?」
「そんなふうに思ってんなら、もうやめようか?この関係。悪ィけどうんざりなんだよ」
そう持ちかけたのは、もう何度めだろうか。
銀八のそのあとの反応をわかってるのに、学習能力がないのか、それとも、
「やめる?そんなこと許されると思ってんか…」
来る。
銀八の表情が一変する。
いつからかこの時を、待ち望むようになってしまった。
「何度教育したら気が済む?そのカラダに」
「………」
銀八の”底知れぬ独占欲”に火をつけたら、もう何を言っても無駄だった。
鬼のような形相で銀八が足を滑らせてくる。
少し後ずさりした。
「それとも何だ」
途端に伸びてきた手に微動だに出来ず、胸倉を掴まれた。
「仕置きされるのが好きか?」
一度引き寄せられて、床にたたきつられた。
肩を強打して高杉は呻き、起き上がろうとすると後ろの襟首を掴まれる。
「来いよ!」
まるでペットに命じるように怒鳴りつけてきた。
ずるずると引きずられる先は寝室だ。
今夜も長くなりそうだ。
気の遠くなるような苦痛と快楽にのまれて。
「そこに寝ろよ」
ベットに引きあげられて、転がされた。
その上に逞しい体格が乗り上げてくる。
ネクタイを解く音が耳を通り、無意識に手首を庇った。
「はっ、わかってんじゃねえか」
面積のある掌に、呆気なく高杉の細い両手首は収まってしまう。
組ませたまま頭上に持っていき、ネクタイを器用に巻きつけた。
「っ…」
痣ができるのではないかと思うほど、きつく縛られた。
不自由な状態にされると、皮膚の裏側で密かに熱いうるみが弾けた。
「なんだよ、大人しくなっちまって」
抵抗のひとつも見せないでいると、銀八がせせら笑いながら、
高杉の服を鎖骨あたりまで捲りあげた。
「こうしてほしいのか?」
さらされた両方の乳首をぐいっと摘ままれた。
「いっ!」
「痛いか?それとも、イイのか?」
千切れる寸前まで引っ張られると、さすがの高杉も悲鳴に近い声をあげ、必死に首を横に振った。
「い、痛いっ、やだっ」
「や?じゃあこうしてやろうか?」
指を離すと、すっかり赤く腫れあがって上向きになった乳首に吸いついた。
「あぁんっ」
敏感になった部分を舌で強めに掃き上げられると、高杉はとろけるような声を上げ、
全身を痙攣させた。
「こっちもだろ」
唇の位置を変えて、もうひとつの肉の実を甘噛みした。
唾液で濡れたほうは指で塗りつけるように愛撫してやる。
「んあぁ…はぁ…あ…」
ぬるりとした感覚が行き来する度に、高杉は腰と足を動かす。
「何だこれ」
銀八の指が不意に高杉のそれを布越しに撫でた。
先走りしたものが下着へズボンへと滲みこみ、露になっていた。
「おもらししやがって、淫乱が」
銀八もそれに頭を痺れさせたのか、浮ついた声でチャックも下げず、
一気にズボンを下着ごとずり下ろした。
下半身が銀八の前に晒され、反射的に高杉は足を閉じる。
「足開けよコラ」
高杉の膝頭を掴むと、無理やり真っ二つに割らせた。
その衝撃で高杉の先端に溜まった滴が銀八の顔に散る。
それに舌うちをして手の甲で軽く拭うと、人の顔に飛ばすんじゃねえよ、と高杉の頬をこっ酷く叩いた。
「こりゃあしつけし直しだな」
「あっ!」
ぐっと根元を掴まれた。
「泣き叫んで謝るまで、イカせてやんねえから」
ベッドのそばに”備えてある”ヒモを取った。
『しつけ』という時はいつもこれを使われる。
根元を縛ろうとすると、
「そ、それだけは…」
高杉が必死に顔を振った。
聞く耳持たずだ。
高杉のほうに見向きもせず、数回巻いてきつく縛った。
「甘やかすとワガママに育つからな…」
こんなものしつけとは呼ばない。単なる虐待だ。
限界まで両脚を広げられると、秘部に冷たい空気が掠ってそれだけでも十分な刺激になる。
銀八が高杉の肛門周囲の肉の豊かな部分を愛撫し、親指で穴を押し広げ、中を舐めるように覗いた。
「俺のをぶち込む前に、他のモン突っ込んでぐちゃぐちゃにしてやるよ」
ふーっとそこに吹きかけると、高杉が少し身悶える。
何をされるのかは見当がついていた。
ベッドの下から黒光りした棍棒のようなものを取り出す。
形は男性器と同じで、銀八のより一回り大きめのものだ。
「咥えろよ」
ペニスバンドを眼前に突き付けてきた。
咥えたあとの鉄臭さが未だに慣れず、高杉は懇願の目で首を横に振る。
銀八の目は相変わらず冷めている。
先端で高杉に唇を捏ねくりまわすようにし、無理やり入口を作ると、一気に奥に押し入れた。
「んぐあ!」
喉を貫かれる思いで、高杉は息苦しさに目を見開いた。
「よく舐めとけよ。お前のケツにブチ込むんだからさ」
「んおっ、ふぐっ、んあ」
「いいねえ、その顔」
涙目で何とかしゃぶり続ける高杉に吹っ掛ける。
ひとしきりしゃぶらせた後、それを引き抜いて、下へ下へと辿らせる。
酸欠気味の高杉は荒く息をついている。
が、呼吸を整えるまで待ってはくれず、黒光りのそれは高杉の秘部の前まで来ると、入口をこじ開けにかかる。
「ここは相変わらずだな。すぐに入る」
「あぁっ」
銀八に開発され、今日学校で近藤のものでほぐされているそこは、呆気なく侵入を許した。
銀八も高杉の身体を知り尽くしていて、いきなり弱い部分に先端を擦りつけ、
「ああぁっ」
感じ入った声をとどろかせる高杉に、満足気に含み笑う。
「どれくらい耐えられるか、実験してみっか?」
途端に突き穿ちのスピードを早めた。
「ああっ、や、やめてっ、やだっ」
高杉の身体が飛び跳ね、何度も反り返る。
吐精欲が一気に上りつめ、生理的な涙が出る。
「気持ちイイか?好きだよなこういうの」
「あっ、あっ、んんっ」
快楽に全身を支配されたら、プライドを保つ余裕などない。
喘ぎながら必死に頷きかけると、銀八がそれを鼻であしらう。
「生憎イケねえけどな」
「ひあっ?!」
欲の塊が表に顔を出そうとしたところで、障害物にぶち当たり、逆流した。
高杉の喉から耳をつんざくような悲鳴が出た。
「うるせえよ」
バチン、と平手打ちをされた。
唇が切れた瞬間、高杉の声が弱弱しくなる。
「ただ騒ぐだけじゃダメだって教えただろ、晋助」
指の腹で何度も高杉の頬を甚振る。その間もペニスバンドを操る手は止まらない。
「そういう時は何て言うんだ?ん?」
「あ、やあっ…はあんっ」
「答えねえと」
「はぁ…あっ、や、だ、だめ、ああぁっ、ああーっ」
一番感じる場所を集中的に激しく責められ、だらしなく悦がり声をとどろかせた。
同時にそれでもイケない歯がゆさに涙がどっと毀れ、唇を噛みしめた。
「イ、イキた…いっ」
「ん?聞こえねえよ」
絞り出された声は酷く掠れていて、銀八は聞こえないフリをした。
はくはくしている高杉の顎を掴み、キスをした。
「言えよ。俺をその気にさせる言葉で、懇願してみろよ」
その言葉に薄ら目を開くと、銀八の強い眼光に引き込まれそうになった。
「イ、イカせて…っ」
「へえ、どうやって?」
「ヒモを、ヒモをとって…」
「取って?それからどうすんの?」
「銀八のを…」
「俺の?何?」
わざと分からないふりをする。
「銀八の…あっ…それ、それが欲しい…っ」
「それって?」
「ち、ち…んこ…」
羞恥に顔をゆがめながらも、銀八が満足するような言葉を選んで、高杉は声を振り絞った。
「俺のがほしいの?この黒いのでも十分良さそうじゃねえか」
ぐいっと突き埋めてやると、高杉の腰が浮く。
「ああんっ、銀八のほうがっ」
「俺のほうがいいのか?」
心なしか、その時の銀八の声が酷く優しいものに聞こえ、
身も心も限界に達していた高杉はすがりつきたくなった。
「欲しいっ…銀八が、欲しいっ」
幼子のように泣きながら訴えた。
銀八の唇が高杉の唇を掠る。
「お前は俺がほしい。そうだな?」
前髪を掻き分けられて額を撫でられると、思わず首を縦に振った。
「俺から離れるなんて、二度と言わねえな?」
普段の彼が嘘のように、こういう時寂しげな眼差しを送ってくる。
それがあるから…
そんな顔をするから。
「ん…」
「よし」
どんなことをされても、許してしまうのだ。
ペニスバンドが引き抜かれ、根元の拘束を解かれた。
強張っていた身体が一気に脱力する。
頭の後ろで組まされていた手首のネクタイも引き抜かれた。
「俺のでイカせてやるから、素っ裸になれよ」
僅かばかりの慈しみを塗した命令口調で、銀八はそっと高杉から離れ、自らの服を脱ぎ捨てた。
高杉もふらふらの身体を何とか捩って、衣服を腕から落とした。
艶やかな肢体を投げ出して待っていると、銀八がそれを抱きしめ、犬の姿勢にさせる。
「死ぬほど気持ちよくしてやるよ」
ぐっと腰を進めて、いきり立ったそれを突き埋めた。
「ああっ」
侵入を果たした途端、激しく腰を揺さぶられた。
「ああんっ、イイ、イイ―ッ」
「はっ、しょうもねえ声出しやがって、このスケベ野郎が」
耳元に囁かれ、たちまち高杉は逆上状態になる。
こんなことで昂ぶってしまうなんて。
「晋助、お前は俺のモンだ…わかってんな?」
「んあっ、あ、ああっ」
「俺から逃げたり、他の奴に身体を許したら…どうなるかわかるな?」
「は、あ、」
「俺が好きか?晋助、え?俺が好きだろ?」
荒い息遣いで呪文のように、銀八が問いかける。
必死な訴えにも聞こえた。
自分は好き勝手しておいて、こちらの自由は奪うなんて何て自己中で我儘な男なんだろう。
そんなことは付き合い始めの頃からずっとわかっていたのに。
「あんっ、す、好き…」
演技ではない。
抱かれながら自然とそんな言葉を口にしてしまうのだ。
銀八が愛しげな笑みを浮かべるのは、この言葉のあと、一瞬の出来事だ。
「イクっ、イっちゃうっ」
「おおっ、俺もイクっ」
ずっとこんなことの繰り返しで、何度もこの男を突き離そうとしては抱かれ、
身も心も満たされて。
そして数日経つとこの男はまた、自分以外の人間のもとへ行ってしまうというのに。
「晋助」
「ん?」
「明日後ろ乗ってくか?学校まで」
ただの気まぐれでも、そんなふうに誘ってもらえるだけで、すべてを許せる自分が、
つくづく殺したくなった。