短編

□prologue
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 暗い部屋に浮かび上がるろうそくの炎。綺麗な円形に整えられた11本のろうそくは、数日前から構想を重ね作ってくれた母親の手作りケーキの上で煌々と今日の主役の顔を照らし出す。

 年に一度のイベントは様々あるが、とかく誕生日はどのイベントよりも盛大に行われる。それなのに、今年は幼馴染と騒ぎ立てる近所の兄の姿も、憧れの姉の姿も見当たらない。どんなに忙しかろうと、毎年必ず駆けつけてくれる大好きな2人がいないのはそれだけでも寂しいものだ。だが、主役が暗い顔をしていてはいけない。例え2人がいなくとも、自分を祝ってくれている人はたくさんいるのだ。

 胸いっぱい吸い込んだ息を思い切り吐き出す。吐息にろうそくの炎が揺れ、消えていく。次の瞬間暗かった部屋の明かりが灯され、カイリは盛大な拍手に囲まれた。


―prologue―


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