番外編
□番外編(第1章中)
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ーーバタンッ!
『ハンジ…ッ、!』
勢い良く開けた扉から真っ直ぐハンジの元へ向かい、拳を振り上げる。
「うわっ!?なに、何事!?」
咄嗟に頭を手のひらで抱えるハンジに思いっきり振り上げた拳を下ろした。
…が、部屋に鳴り響いたのはバキッというグロテスクな音ではなく「ぽこっ」という可愛いらしい音。
「へ?」
『…っ、ぜぇ…ぜぇっ』
ハンジの不思議そうな声。
「…どうしたの、そんな息切れし…うぐっ!」
「オイ、クソメガネ。これは一体どういうことだ」
ハンジの胸倉を掴もうとすると、後ろから出てきたリヴァイの手がハンジの胸倉を掴み上げた。
「ちょっとタンマ!本当に苦し…っ」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ、ユキに何をした?」
「え、まさかもう効いちゃったの?」
ここに来るまでの走りでぜぇぜぇと肩で呼吸する私を見たハンジの一言に、リヴァイは更に彼女を問い詰める。
「一体何しやがった?」
「話す!話すから手を離してよ!このままじゃ本当に死んじゃうって!」
「…チッ」
リヴァイはハンジを放り投げるように手を離す。
「降参」というポーズをとるハンジは観念したように口を開いた。
**
***
「巨人の力を弱めるための研究の実験に、ユキを使ったというわけか」
「使ったなんて嫌な言い方しないでよエルヴィン、協力してもらったんだよ」
”どっちも同じだろうが”とハンジはリヴァイに蹴り飛ばされる。ハンジからの説明を聞いた私たちは、エルヴィンにも説明するため団長室に赴いていた。
案の定、エルヴィンも困った表情を浮かべている。
「…ハンジ、前回のことで反省したのではなかったのか?」
「研究は尽きないからね」
「…今回はリヴァイが助けたら良かったものの、一歩間違えば大事故になるところだった」
「…それは、本当に悪かったと思ってる。この薬の効果が現れるのはもっと後だと思っていたんだ」
エルヴィンとリヴァイに問い詰められるハンジに視線を向ける。
巨人の研究…。
上手い言い訳を考えたものだ。
確かにそれもあるだろうが、これはこの間の会話で私が発言したことを実現するためだろう。
こんな事をすれば、こうやって責められることは目に見えていたはずなのに、何をやっているんだこいつは。
『それで、戻す薬もあるんでしょ?』
「ないよ?」
「「『は?』」」
さも当然というように言われる言葉に、思わず声が揃ってしまう。
『…ちょっと待って。前回と違って今回は故意的にやったんでしょ?だったら…』
「この薬の効果は2日くらいだから、待ってれば自然に元に戻るし」
そういう問題じゃないだろ!
と、心の中で叫ぶ。
じゃぁ私は2日間この状態でいろってことか!?
「今すぐ作れ」
「作ってもいいけど、完成より自然に戻る方が早いと思うよ?」
「…チッ」
「…しょうがない、2日間ユキは訓練から外れてくれ」
エルヴィンが”しょうがない”と困ったように口を開く。ハンジの方に視線を向ければ、ニッと笑みを浮かべている。…その顔面を蹴り飛ばしてやろうかと本気で殺意が芽生える。
もうこんなところにいてもしょうがない。部屋を出ようとドアノブに手を掛けた時、突如向こう側から扉が開き、ガンッ!と額に直撃した。
『っ!』
「ふ、副兵長!?すみません!」
「そう言えば体力の低下と一緒に第六感も鈍くなってるから気をつけてね…てもう遅いか」
額を抑えてしゃがみこむ私に、向こうから扉を開けたであろう兵士がすみませんと只管謝っている声が聞こえる。
「オイ、大丈夫か?」
『…〜〜っ』
「…!」
隣にしゃがみこんできたリヴァイに視線を向けると、リヴァイは驚いたような表情を浮かべる。
それはそうだ…、今の私は瞳に溜まる涙を必死に堪えている状態なのだから。
「…あ、あれ、どうしたのユキ?」
『…っ』
どうしたのじゃねぇよ!
めちゃくちゃ痛い、
声が出ないほど痛い。
じんじんと痛む額を抑えながら痛みに耐える私を見て、ハンジは「あちゃぁ」と口を開いた。
「体力が下がったってことは、痛みに対する耐性も弱くなっちゃったのかも」
”かも”じゃないんだよ、
もう既にめちゃくちゃ痛いんだよこの野郎…っ。
「見せてみろ」とリヴァイが額を抑えている私の手をどけて覗きこんでくる。
「…あらら、コブになっちゃったね」
「誰のせいだと思ってるんだクソメガネ。10秒以内に冷やすもの持ってこい」
「10秒は無理だけど急いでとってくる」
バタバタと廊下へ走ってくハンジ。”本当にすみません”という兵士に、リヴァイが”気にするな”と返す。
「痛むか?」
『…っ、さっきよりは大丈夫』
「…そうか」
リヴァイの親指がスッと赤く腫れている部分を撫でる。視線を上げれば心配そうに浮かべられたその表情に鼓動が波打つ。
私の視線に気づいたのか、リヴァイの瞳と視線が交わり思わずビクッと後退すると、その眉間に皺が刻まれた。
「なんだ?」
『…なんでもない』
なんでこんな下手くそな言い訳しか思いつかないんだ私は。
「兎に角気をつけろ。クソメガネが言っていることは本当らしいからな」
『…うん、そうみたい』
体力の低下と第六感が効かなくなっているということ。さっきも向こう側に人がいるというのは、普段だったら分かっていたはずなのに全く分からなかった。
しかも、ドアに額をぶつけただけでこの始末。訓練どころか日常生活にも支障をきたすかもしれない。
「お前は余計な事するな、大人しくしてろ。」
リヴァイに強く念を押され、
私は「分かった」と答えるしかなかった。
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