番外編

□番外編(第1章中)
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『今日はありがとう、楽しかった。』

「お前は本当に呑気だな。さっきまであんなに怯えてたくせに」

『自分でもビックリした。今度リヴァイもあの薬飲んでみなよ、本当に何も感じとれなくなっちゃうから』

「誰があんなもん飲むか」


ハンジもさすがにあの薬をリヴァイには飲ませないだろう。もしその間に巨人が攻めてきたりしたら最悪だ。

それに飲ませた後が怖すぎる。

他愛のない会話をしている間に兵舎が見えてきた。…もう着いちゃったんだ。こんな時くらいもう少しゆっくり時間が流れてくれればいいのに。


「お前と下らない本部以外の場所に出掛けるのも悪くないな」

『いつも面倒くさいことが付き纏うもんね』

「…」


けらけらと笑うと、
一瞬の沈黙が落ちる。

なんだろうと隣を見上げると、リヴァイはこちらを見ずにゆっくりと口を開いた。


「今度の休み、二人でどこかいくか」


その言葉に思わず目を見開く。

そ、それって…まさかデー…


「兵舎にいたら休日でもお構いなく面倒ごとを押し付けられるからな」


そう続けられた言葉に、期待していいのかいけないのか複雑な気持ちになる。

お誘いしてくれたのだろうが、これは所謂デートではなく、ただ面倒ごとを引き受けたくないだけ?

久しぶりにリヴァイの事が分からず動揺する。仕事のことだったら、何が欲しいのかとか全部分かるのに。


「行くか?」

『行く』


だが、理由はどうあれリヴァイとまた二人で出掛けることができるという事が嬉しい。本当に私は単純だ。


**
***


ーードガァァッ!


「うわっ」

凄まじい音を立てて開いた扉に驚き視線を上げる。早朝から怒りの篭った開け方をするのは一人しかいない。

人類最強の兵士長様のご機嫌を損ねるような事をしただろうか、と自分の記憶を辿っていると胸ぐらを掴んできたのは大親友であるユキだった。


「あ、あれ…?こんな朝早くにどうしたの?」

『…』


背中を冷や汗が伝う。
胸倉を掴む力とユキから放たれる殺気に、薬の効果が切れたのだと認識する。


[薬の効果が切れたら覚えておけよ。]

…そういえばそんな事言われてたような。


「ちょっと、お、落ち着こうかユキ」

『…』

「兎に角良かったじゃない。こうやって力が戻っ…」


彼女の小さな手が振り上げられ、思わず「ひっ」と瞳を瞑る。…が、来ると思っていた衝撃はいつまでたってもこない。

恐る恐る瞳を開けると、ユキは深くため息をついて掴んでいた手を離した。


「…あ、あれ?怒ってたんじゃないの?」

『ものすごい怒ってた。身体は思うように動かないし、痛い思いはするし最悪だった』

「痛覚が敏感になるのは本当に計算外だったんだって」


その点に関しては、未だに若干腫れている額を見て反省している。治りも遅くなっているらしい。

いつ殴られるかとビクビクしていると、ユキは予想に反して踵を返し扉に向かっていく。

ただ振り返って一言、

『今後やったら許さないから』

それだけを言い残し、
静かに部屋を後にした。

思わずぽかんと拍子抜けしてしまったのと同時に、どうやら何かいい事があったのかもしれないという考えに至った。

何があったのかものすっっごく聞きたいが、相手はあのユキとリヴァイ。普通の兵士と違ってどちらもガードが固すぎて聞き出すことは難しすぎる。

「…気になるなぁ」

ぼふっと背もたれに深く腰をかけ、無機質な天井を見上げる。

まぁ、何か進展があったらしいことは確かなので、こちらとしても嬉しい限りだ。苦労して作った甲斐があった。

今度はどんなものを作ろうかな。
なんて考えている今の私を誰かが見たら、即通報ものの表情をしているだろう。

だけど、あの二人をからかうのは最高に面白い。今回のことでの反省はさっきしたし、今回は今回、次回は次回。

私は再び机と向かい合い、
次の作戦について思案するのだった。



END
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