番外編
□番外編(第1章中)
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ーー…ガチャッ。
扉が開いた音に硬直する。
反射的に扉の方に視線を向ければ、そこには訓練を終えたリヴァイが立っていた。
リヴァイは私に視線を送った後にハンジを睨みつける。私が完璧に戻っているかどうかの確認だろう。
「あははー、ごめんね。完璧に戻っちゃったみたい」
立ち上がってリヴァイの肩を叩きまるで戻って欲しくなかったかのように言うハンジに「どういう意味だ」とリヴァイは眉間に皺を寄せる。
ハンジは誤魔化すように笑いながらリヴァイの横をすり抜け、廊下へ出ていく。
ちょっと待て、いきなり私とリヴァイを二人にする気か!?と視線を向ければ、ハンジは「ばいばい」と言葉を発さず口だけを動かして行ってしまった。
…あんの野郎!
いつもはしつこいくらい間に入ってくるくせに、どうしてこういう時だけあっさり引くんだよ!
リヴァイと視線が交わり、
思わず顔をそらす。
違和感を覚えただろうがそこには触れてこず、リヴァイは壁に背を預けて腕を組んだ。
「本当に元に戻ったのか?」
『…うん』
「そうか、もう動けそうか?」
「大丈夫」と答えるとリヴァイは「悪いがお前がいないうちに溜まった仕事がある」と言った。
…でしょうね。予想していたことだけに驚きはしない。あれだけあり得ない事態が起こったというのに私の体はもう何ともなくなっている。
前回の時もそうだったが、一体ハンジの薬はどうなっているんだと思わざるをえないが…今はどうでもいい。
それよりまるで何もなかったかのように普段通りのリヴァイの方が重要だ。私はこんなにも変に緊張しているというのに、どうしてこんな平然としているのだろう。
もしかしてあれは夢だったの?と思ってしまうほど変わりがない。もっとこう…、なにかあってもいいんじゃないか。
子供になってたとは言え昨日まで抱きついたり手を繋いだり、一緒に寝ていたのだ。…しかも今朝に限っては元の体で抱きついて頬擦りまでした。
なのにここまで変わらないのは…、リヴァイにとって私が何をしようとそんなに大きな出来事でもないということか…。
そう考えると悲しくなった。
…当然だ、私はリヴァイのことが好きだからこんなに悩んでいるが、リヴァイは私のことを何とも思っていないのだから。
私はベッドから降りて部屋を出ていくリヴァイの後を追う。いつもと同じ。昨日までは抱きついていたが、今はそんなことできない。
こんなことならもっとくっついておけば良かった。…って何を考えてるんだ私は、変態か。
それよりまず言わなきゃいけないことがあるだろう。私は隣を歩くリヴァイを見上げ、口を開こうとして…やめた。やっぱり恥ずかしい。数日前のことを思い出しては余計に言葉がでてこなくなる。
そしてもう一度見上げた時リヴァイと視線が交わった。思わず目を見開く。
「なんだ、また手でも繋いで欲しいのか?」
『…っ!』
鼻で笑うリヴァイに言葉を失う。
確かに、この行動は昨日の私と同じ。正確には子どもになった私だが。
「本当は元に戻ってないんじゃないか?」
『もう治ってるよ!』
「だったらお前のそれはガキの頃からの癖か」
…ぐっ、と口を閉じる。
ここで否定したところで説得力もない。この人は実際子どもになった自分を見てきたのだから。
「他にも色んなことを知れたな。お前は意外と聞き分けが良くて素直らしい」
『今更知ったの?私は前から聞き分けが良くて素直だった』
そう言えば「どの口が言ってやがる」と悪態をつかれる。
「それにすぐ寂しがって、誰かれ構わず抱きついて頬擦りしやがる」
ビクンと心臓が波打つ。
背中に冷や汗が伝ってきたのがわかった。
『…、ごめん』
「あ?」
『色々迷惑かけたし、…その…今朝のことも』
もごもごと小さな声で言うと、
リヴァイは「…あぁ、あれは驚いたな」と鼻で笑った。
『だからごめんってば…』
「別に謝ることじゃないだろう」
『…だって』
「俺は嫌だったとは言っていない」
その言葉に『…え?』と固まってしまったのは私のせいではないだろう。イヤデハナカッタ?頭の中でその言葉の意味を考えるが一向に私の頭は結論を見出してはくれない。
無意識にリヴァイを見上げれば、「なんだ」と言われる。いや、なんだってあんた…そりゃぁないでしょうよ。
その意味を問おうと勇気を出して口を開いた時、私の言葉はリヴァイの言葉に遮られた。
「オイ」
『…なに?』
「今度休みがとれたら街に行くか」
私は大きく目を見開く。
再びリヴァイを見上げれば、こちらに視線を寄越すことなく前を向いていた。
しかしその表情は真剣で、冗談で言っているのではないことが分かった。
そ、それってまさか…。
『二人で?』
「当然だろう」
リヴァイはこちらを向かず、
私の頭は更に混乱していく。
「必要な買い出し以外に街にいく楽しさなんざ理解できなかったが、昨日餓鬼のお前と行った時はなかなか楽しめた。だから、今度はお前と行ってみたいと思ったんだが…嫌か?」
『…嫌じゃない』
「そうか」
なら決まりだな。
と、リヴァイは言う。
…あぁ、私の馬鹿。
何が「嫌じゃない」だ。
もっと素直な言い方があっただろう。こんなにも喜んでいて今、叫びたいほど嬉しくてしょうがないくせに。
唇を噛みしめる。緩んだ口角が上がってしまいそうで、更に強く力を込めた。
毎回毎回変な薬を作りやがるハンジは本当にどうしようもない奴だが、こういう時は少し感謝してしまう。
絶対口にはださないが。
窓から吹き抜ける風が頬を叩く。
思わず足を止めれば、「どうした?」とリヴァイが振り返る。
『なんでもない』
私は再び足を進め、
リヴァイの隣に駆け寄った。
ー小さな手ー
(それにしても今朝は傑作だったねぇ、あんなに焦ってるリヴァイ初めて見たよ。ユキを必死に引き剥がそうとしちゃってさぁ、顔も赤かったしユキに見せてあげたかったよ)
(…ハンジ、あの男を一日お前の部屋に閉じ込めてみようと思うのだが)
(何言ってるのさ冗談きついって。気持ちはわかるけどさ…っていうかそれどういう意味?)
(…)
(ちょっとエルヴィン!?顔が本気なんだけど冗談だよね!?あなたのその顔はマジで怖いからやめてよ!?)
END