番外編

□リヴァイ班
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リクエスト作品
リヴァイ班が任務放棄していることには目を瞑ってください。


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***



「乾杯!」と、グラスを交わし合ったのは数時間前。ユキが『せっかくだからリヴァイ班で飲もうよ』と言ったことをきっかけに、俺たちは全員で酒を囲んでいた。

既に殆どの人間ができあがっていて、自分も気分がよくなってきた。酒に強いユキはまだ変わった様子は殆ど見られないが、彼女の周りに転がっている酒瓶を見る限り全く酔っていないわけではないだろう。

今日一日だけではあるが、こうして全員で酒を囲んで馬鹿騒ぎするのも悪くない。


「ユキ、俺と勝負しろ」

『勝負って飲み比べ?オルオ既に顔真っ赤だけど大丈夫?』


オルオが酒瓶を片手にユキへ勝負を持ちかける。ユキの言う通り顔の赤いオルオを見る限りもう始まる前から勝負は見えているようなものだが…グンタとエルドが揃ってはやしたて、ペトラはやめたほうがいいと必死に止めている。


「おお!いいぞいいぞオルオ!調査兵団の酒豪を負かしてやれ!」

「ちょっとやめなさいよ、もう勝負は見えてるじゃない」

「まぁまぁペトラ、これはこれで面白そうじゃないか。暖かく見守ってやろうぜ」

「…でも」

「ふん、ペトラ。お前は俺がこんなガキンチョに負けると思ってるのか?」

『ガキンチョ…!?…オルオ、早くここに座って』


ガキンチョ呼ばわりされたことが気に入らなかったユキは、眉間に皺を刻み自分の横を叩いてオルオに隣に座るように促す。

「はっはっは、手加減してやらねぇぜ?」と言っているオルオは間違いなくユキに潰されるだろう。あのユキの目からは「潰してやる」という決意がひしひしと伝わってくる。


「よし、じゃあ一杯目はワインから行くぞ!」


並々と注がれたワインを、オルオの掛け声と共に二人は一気に煽る。

そして次の酒、次の酒…と三杯目を飲み終えたところでオルオの身体がふらふらとし始めた。誰がどう見てももうこれ以上は飲めないし、対してユキは少し顔が赤くなっているがケロリとしている。


『この勝負は私の勝ちだね、オルオ』

「いや、まだま……ッ!」


もう一杯!という勢いでグラスを差し出したオルオの額に、ユキが親指で押し上げた酒瓶のコルクが勢い良く飛び出し命中する。

すこんっ!という小気味好い音と共にオルオは床に倒れこみ、ユキの勝利は確定した。


「あっははは!やっぱりユキには勝てなかったか!」

『ガキンチョ呼ばわりされて負けるわけにはいかないから。ねぇ、エレン』

「あはは…、そうですね。それにしてもユキさんって本当にお酒強いんですね」

「そうだぞエレン、ユキは調査兵団の中でも滅法酒が強い。俺は今までユキに勝った人間を見たことがない」


へぇ…と驚いたように目を開くエレンは倒れたオルオを端に寄せようとオルオの身体を引きずっていく。呆れ顔をしたペトラも手伝う中、エルドが「そうだ」とどこからともなくトランプを取り出した。


「ユキが強いといえばこれもだよな。一回勝負してみたかったんだ」

「お、トランプか。俺は前にやったとき勝てなかったなぁ」

『いいね、やろう。やっぱり定番のポーカーから?何を賭ける?』

「…そうだな、負けた奴は勝った奴の掃除場所もやるっていうのはどうだ?」

「『のった』」


勝負内容と賭けるものが決まったところで、エルドはトランプを均等に配っていく。その光景を眺めているとオルオを端に寄せてきたペトラが俺の隣に腰を下ろし、盛り上がっている三人を見て口を開いた。


「今度は何をやっているんですか?あの三人」

「くだらない賭け事だ。」

「…何考えてるんだか。トランプでユキに勝てるわけないのに。」


そう言って呆れたようにため息をつくペトラの頬は赤く染まっていて、「お前、顔赤いぞ」と言えば少し驚いたように頬に手をあて「ちょっと飲み過ぎましたかね」と苦笑を浮かべる。

そう言えばさっきもオルオを運んでいるとき少し足元が覚束なかったような気がする。ペトラは手に持っていた酒の注がれたグラスをおき水と取り替え、再び三人に視線を向けた。


「そういえば兵長、ユキがお酒の飲みながら他の兵士とああやって遊んでいるのって見たことありますか?」

「…あまりないな」


ユキが頻繁に兵士と酒を囲いながらトランプやチェスをしているという事は知っているが、実際にその姿を見たのはたまたま通りかかった時ぐらいのもので数えるくらいしかない。

俺はユキのように率先して人の輪の中に入るような人間でもないし、第一他の兵士といるユキが楽しそうに笑っているのを見るのはあまり気分がいいものでもなかったからあえて見に行こうとは思わなかった。


「ユキはいつもあんな感じで楽しそうに笑ってますよ。副兵士長になってからは少し控えてるみたいですけど」

「…そうか」

「…心配ですか?」

「いや、そういうわけじゃない」

「兵長が言えばユキもやめると思いますよ」


そういうペトラの言葉は俺の下らない嫉妬を見越しているようだった。…いや、実際に分かっているのだろう。ペトラはハンジと同じくらいユキと仲良くしている人間だ。


「…いや、いい。あいつがああやって笑っている事はあまりないからな。本人が楽しんでいるのなら邪魔はしたくない。副兵士長として普段気を使わせていることも多いしな」


ユキが他の男に向かって笑いかけているところを見るのは正直気分のいい話ではないが…。ユキには普段気を使わせている分、ああして楽しんでいる時間を自分の下らない嫉妬のせいで奪いたくはない。

そういうとペトラはクスクスと笑い「兵長は本当にユキのことを大切にしているんですね」と言った。


「入団当初の話なんですけど、当時私とユキって実は仲悪かったんですよ」


ペトラの言葉に驚いて視線を向けると、「…って言っても私が一方的に敵対視してただけなんですけどね」と言った。


「入団当初、ユキは私たちにとって異質でした。どうして自分たちと同時期に入ってきたのに一緒にいないんだって。訓練でもいつも特別扱いされていて、しかも団長や分隊長…更にはリヴァイ兵長とも仲良しで、そんなユキがずっと羨ましかったんです」

「…」

「それでも話してみたら想像していたよりずっといい子で、気づいたら同期と同じくらい仲良くなっていました。ユキ本人のことは嫌いじゃなかったしむしろ好きでしたけど、どうしても羨ましかった…最低ですよね。」


ペトラは困ったように眉をハの字にさせて笑う。俺はグラスを口元に傾け酒を煽り、当時のことを思い出しながら口を開いた。


「あの時期はユキにそういう感情をもつやつは珍しくなかった。他の人間からも嫌がらせを受けていたこともある」

「ユキは蹴散らしてましたけどね」

「そうだったな」


始めは黙っていたユキがたった一言放った言葉で黙らせてしまったのだ。あの時の光景は今でも忘れられない。思い出しては彼女の度胸と強気な性格に笑わされる。


「今だから言えますけど私、兵長に憧れて調査兵団に入団したんですよ」

「…は?」

「珍しいことじゃないですよ。だから私は余計に、リヴァイ兵長の隣にいるユキが羨ましく思ったんです」


訓練過程も受けていないユキが当たり前のようにリヴァイ兵長の隣にいて、実力を見た時にその理由は分かったけれど…それでもユキを恨めしく思ったとペトラは言った。


「そして入団して間も無くユキに言ったんです。私はユキに嫉妬してる。いつか絶対に兵長の隣を奪って見せるって」


ペトラは昔のことを思い出したようにクスリと笑って続けた。


「そしたらユキ、なんて言ったと思いますか?『副兵士長の席は譲れない。私の生きる意味はあの人を隣で支えることだから』って言ったんです」


前にユキが『私の生きる意味はずっと前からリヴァイだった』と言っていたが、まさかそんな前からだとは思わなかった。

今の話は入団してから間もない頃の話だ。俺の隣を譲らないと言ったユキがその時俺に対して今のような好意を持っていたかは分からないが…、それを聞いて嬉しいと思わないわけがなかった。同時にユキらしいいじらしさに愛しさは更に増していく。


「それをあんな綺麗な目で言われちゃったら、もう諦めるしかないなって思いました。勿論今も兵長を慕う気持ちは変わってないですけど、それは男の人としてというよりあくまでも兵長としてです。今は二人が一緒にいるのを見るのが本当に好きで、ずっと一緒にいて欲しいって思ってます」


俺はそうか、と答える。ペトラが自分を慕っていたのはなんとなく分かっていたが、オルオやグンタ…エルドたちと同じようなものだと思っていた。

今は彼らと同じだが昔は違かったと今言ったのは、酒が回って少し気が緩んでいるからだろう。だとしても、ペトラの気持ちは正直嬉しかった。

俺が好きなのはユキだけでそれは何があろうと今後変わることは絶対に無いが、人からの好意を悪く思うような人間はいない。

俺のグラスがカラになっていることに気づいたらペトラが、グラスに新たな酒を注ぐ。


「ユキって本当に素直じゃなくて、不器用で、すぐに一人で抱え込もうとするし…放っておいたら危なっかしい本当に困った子ですよね」

「そうだな」

「そのくせ自分のことより他人のことばっかり気にかけて、面倒見がよくて、義理堅い。冷静なようでいて意外と子供っぽいところもある…そんなユキが私は好きです」


酒の入ったグラスを口元に傾けるペトラを止めれば、「こんな時くらいいいじゃないですか」と赤い顔で言う。

耳まで赤く染まっているのは酒に酔っているからだろうが、今の会話で赤くなった顔を誤魔化すた めのような気もした。


「だから、兵長。ユキのこと本当に大切にしてあげてください。今も充分大切にされているのは分かっていますけど、これから先もです。ユキはきっと兵長がいないとああやって笑うことも無くなってしまうと思うんです」

「…あぁ、初めから手放すつもりなんかねぇよ」


そう言うと、俺の言葉が意外だったのか目を丸く見開いたペトラの視線が俺に向けられた。


「なんだ?」

「いや、兵長がそんなことを言うとは思っていなかったので…」

「こういう席だ、気を張る必要もないだろう。お前もそうしていたようにな」

「あはは、そうですね」


その時どうやら決着がついたらしく、ポーカーをしていた三人から声が上がった。


「おい、嘘だろ!?絶対勝ったと思ったのに!」

「あっははは!惨敗だったな」

『明日の私とエルドの掃除場所、しっかりやってね。グンタ』

「くっそぉぉ!」


ケラケラと笑い合う三人は本当に楽しそうで、観戦していたエレンにグンタが泣きついている光景にペトラが口元に手をあてて笑った。

エレンがかわいそうでしょ、というユキがグンタを引き剥がすと、グンタは「もう一回」と勝負を挑む。

勝ったエルドは嫌がっていたが見兼ねたユキが『しょうがないなぁ』ともう一回戦やることになったらしい。

トランプをきり、配ろうとしたところでユキがこちらを向く。なんだ?と思っているとユキは子どものように無邪気に笑って言った。


『リヴァイもペトラも、もちろんやるよね?』

「「は?」」


聞いておいてもう参加させる気でいるユキはトランプを6人分に分ける。オルオは倒れているので俺とペトラ、そしてエレンの分もある。


「え、オレもですか!?」

『もちろん。負けたらここの片付けと、グンタと一緒に勝った人の掃除場所をやるってことで』

「ええ!?じゃぁ俺がこの勝負にも負けたら…」

「みんなの掃除場所とここの片付けだな」


文句を言うグンタにユキが『勝てばいいんだよ』と一言。
「簡単に言うなよ…」と零すグンタは配られたトランプをこれでもかという程見つめて頭を抱える。

俺とペトラはお互いに視線を合わせると、ペトラはやるしかないというように苦笑を浮かべた。

俺は小さくため息をつき、自分の手元に配られたトランプを広げる。


『じゃぁ、さっき負けたグンタから時計回りで』


ユキの言葉によって第二回戦が始まった。ふと顔を上げて見れば全員が自分の手札を見て眉間に皺を寄せ、真剣な表情を浮かべている。

『たまにはみんなで飲もうよ』と言ったユキの言葉に始めは正直のり気じゃなかったが、こういう時間も悪くない。

正面に座るユキが、
自分の手札を見て小さく笑った。




end

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