空色りぼんB

□導いた答え
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予定の場所に着いてからは慌ただしかった。まず始めに掃除をさせたがこの餓鬼共は今までの人生で一体何を学んできたんだと言ってやりたいほど俺の神経を逆なでる。

こんなときユキがいれば完璧に掃除を熟し餓鬼共にも徹底的に俺の満足がいくまで掃除法を教えていただろうと、そんな考えが一瞬頭を過ぎったが振り払った。

中でもマシだったのは俺の教育を一ヶ月間受けてきたエレンだったが他の奴らに教え込んでもあいつの性格のせいかイマイチ効果は見られない。奴らが完璧になるまでには時間がかかるだろう。


荷物の整理と掃除を終え、なんとか飯くらい食えるだろうというところで夕食をとる。

そんな中、暫く口を開かなかったヒストリアが自分の生い立ちについて語った。

母親や祖父、祖母が自分にとっていた態度やそれに対する思いなどはどうでも良かったが、父親が現れてからの話は無下にできそうにない。

これはクソメガネに伝える必要がある。今日はここで寝るはずだったがしょうがない…班員に明日戻ると伝え馬を走らせ俺は本部へ向かった。

本来なら伝令なんてものはあいつらのうちの誰かに任せるものだが今は状況が違う。新兵に任せて尾行でもされたら折角エレンとヒストリアを隠しここまで来た意味がない。

夜道ではあまり馬を駆けさせることもできず一定の速度で走り続ける。市街地を通るわけにもいかず森を走っていれば、本部に置いてきたユキの顔が浮かんだ。

副兵士長を解任し足手纏いだと冷たく突き放した時の、ユキの寂しげに瞳を伏せた表情に心が痛む。

だが、言い過ぎではないはずだ。あれくらい言わなくてはあいつは必ずついて来ようとする…それでは意味がない。

戦わなければユキが危険な目にあうことはない…だからユキを突き放した。これが最善の選択のはずだとユキが眠り続けていた時に俺自身が強く実感したことだった。

このまま目を覚まさなければ、もう二度と声を聞くことも会話をすることも笑顔を見ることもできなくなる。

そう思った瞬間、俺の世界は一気に色を失った。全てがどうでもよかった。この世界がどうなろうが俺自身がどうなろうがどうでもいいと本気で思った。

あの時どうして別行動を許したのか?どうして危険だとわかっていながらあいつらだけにエレンの護衛を担わせたのか?どうして女型の巨人を取り逃がしてしまったのか?

そのことばかりを考え自問自答を繰り返し、何度も自分を責め続けた。

しかし、いくら自分に問いかけても答えは見つからない。そもそも結果は誰にもわからないとエレンに言ったのは俺自身だ。

これから先どんなに頭を悩ませて決断したことでも、またユキを危険な目に合わせるかもしれない。また何も護れずに全て失ってしまうかもしれない。

大切な仲間も、
…愛する存在も。

そうならないためにはどうすればいいのかと考えた結果出てきた答えはユキを戦いから遠ざけるということだった。

ユキを突き放し戦いへ行かせない。戦場に行かなければ死ぬこともない。驚くほど単純な答えに頭の中に燻っていた霧は一気に晴れていった。


…そうだ、俺は前からそう考えていたじゃないか。だが、それをしなかったのはユキが納得しないからということと、エルヴィンが首肯かないと思ったからだ。

だが、もうそんなことどうでもいい。
ユキが納得しなかろうがエルヴィンが首を横に振ろうが関係ない。ユキはもう戦場には出さない。

そうすればもうユキを失うかもしれないなんて、あんな心の底から震えるような恐怖に怯える必要もなくなる。

ユキが生きていれば俺は生きていける。ユキが無事でいてくれればそれでいい。その為ならどれだけ冷たい言葉を吐くことも差し伸べられた手を振り払うこともできる。それによっていくらあいつが傷つこうが俺の心が痛もうが耐えることなんて簡単だ。

この先どれだけ残酷な世界に振り回されようとユキさえ生きていれば俺は生きていける。

何度でも立ち上がり、
戦うことができる。

…あぁ、なんていい考えなんだろう。
始めからこうすれば良かったんだ。

あいつの意思も周りの意見も関係ない。駄々を捏ねるなら力でねじ伏せればいい…もちろんそれはユキも例外じゃない。

どれだけ俺がお前を必要としているのか、大切にしているのか、…愛しているのか。身をもって思い知らせればいい。


漸く長い道のりを終え、馬を繋いで本部へ入る。途中二ファ会いクソメガネは明日にならないと帰ってこないという報告を受けた。

こんな夜中にどこに行ってやがるあのクソメガネは…ローゼの調査も、日が登らなくては調査もクソもないだろうがと思っていると二ファは続けて言った。


「それと、ユキ副兵長はお部屋で食事を摂っておられるかと思います」

「そうか、悪かったな」

「いえ」


食事を運ばせた彼女に礼を言い、俺はユキのいる自室へ向かった。昨夜は言っていなかったが今朝は「部屋から出るな」と念を押しておいたから問題はないだろう。

「ユキ」

一応ドアをノックし、名前を呼ぶ。
しかし数秒たっても返事がない。

もう寝ているのかと思い静かに扉を開ければ、今朝と同じく部屋はもぬけの殻だった。風呂にも便所にもいない、テーブルの上には空になった食器だけが取り残されている。


「…あいつ」


あれだけ部屋から出るなと言ったのにどこへ行きやがった!?

またエルヴィンの部屋にいるのかと思えばユキはおらず、当然ながら彼女自身の自室にもいない。


「…クソッ」

「…あれ、リヴァイ兵長。どうしてここに…今日は戻らないのでは?」


そう言ってきたのは任務を終え戻ってきただろう、ハンジの部下のケイジだった。


「あぁ、お前らの上司に伝えることがあってな」

「ハンジ分隊長なら明日まで戻りませんが、自分がお伝えしましょうか」

「…いや、いい。それよりユキを見なかったか」

「副兵長なら先ほど技術班のほうへ向かうところを見ましたが」

「技術班だと?どうしてそんなところにいく必要がある」

「立体機動装置を持っていたので、恐らく修理のためだと…損傷が激しかったので自己修復は不可能だったんだと思います」


舌打ちをすれば「兵長?」と不安そうに問いかけてくるケイジに「わかった」とだけ伝えて技術班の元へと向かう。

立体機動装置の修理だと?ふざけるな。お前はもう戦いには出るなとあれだけ言っただろうが!


高揚する気持ちを抑え廊下で待っていれば、ユキはすぐに現れた。朝まで帰らないと言っていた俺がいることに驚いたのか目を見開いている。


『え、リヴァイどうして…』

「来い」


説明することなく腕を掴んで俺の部屋まで無言で引き摺り込む。

バタンと扉が閉まる。向かい合えば不安そうな色を灯した瞳が見上げていた。




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