番外編

□彼の部屋
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『…あれ?ここにもいない』


リヴァイの部屋の扉を開けてみるが、そこに部屋の主はおらずもぬけの殻だった。執務室にもいなかったしどこ行ってるんだろ…。

エレンの監視役であるため建物のどこかにいるはずなのだが、如何せん見当たらない。…またどこか唐突に気になって掃除でもしてるのかな?


『これ渡したいのになぁ』


私は手に持ったままの書類をとりあえず机の上に置く。ここにおいておけば見るだろう。それにしても相変わらず綺麗に掃除されている部屋に思わずため息がでる。

旧調査兵団本部とだけあって元はそんなに綺麗じゃなかったはずなのに、あの男の手にかかればここまで綺麗になるのか。私もリヴァイの影響を受けてそこそこ綺麗にしているつもりではあるが、全く適う気がしない。

机の上には読みかけなのか本が1冊と着替えが置いてある。お風呂から出た後に着る洋服をもう用意してるのかな?

部屋で飲んでいたであろうはずの紅茶のカップなんかはもちろん放置されていない。茶葉はあるのに、カップはきちんと調理場のほうへ持っていっているらしい。

同じ地下街出身のはずなのに、どうしてこうなったのかは未だに理解できない。逆に地下街にいたからこそ反動で潔癖になったのか…?地下ではどうしていたのか知りたいくらいだ。


『…はぁ、疲れた』


別にそんなに歩き回ったわけでもないが、なんだかどっと疲れてベッドに腰掛ける。そのまま自然と体は倒れ、ベッドに沈んだ。

探しても見つからない状況は何だか寂しいなと思いながらシーツを握ると、安心する香りが鼻を擽った。もうリヴァイの温もりはすっかりなくなっているのに、それでも心から安心できる存在を思いながら瞳を閉じた瞬間は、とても幸せだった。



**
***



階段の隅にたまっていた埃を見つけ、エレンを絞ってから執務室に戻ればユキがいなかった。さっきまではいたはずなんだが…。

その後、ユキの部屋や調理場、庭や屋上なんかも見に行ったがいなかった。他の奴らに聞いても「見ていない」という。


…ったく、どこ行ったんだあいつは。いつもいつもフラフラと。エレンの監視があることを充分に理解しているユキは、命令がない限りこの旧調査兵団本部から出るようなことはしないだろう。

だが、粗方この建物内は探したはずだが、いない。どこ行ったんだと思いながら一度自室に戻って、…驚いた。

散々探し回ったはずのユキは俺のベッドに横になって眠っていた。ドアを閉め、近づいても全く起きる気配がない。

小さな手でシーツを握りしめ、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。その表情は本当に幸せそうに口もとを緩めていた。


「幸せそうな顔してんじゃねぇよ」


思わず笑みが零れる。この表情を見て、何も思わないわけがない。

どうしてユキが俺の部屋にいて俺のベッドで寝ているのかは知らないが、好きな女が自分のベッドでこれだけ幸せそうに眠っている。愛しいと思わないはずがない。

試しに頬を撫でてみるが動かなかった。微かに紅潮している頬は相変わらず柔らかくて、ずっと触っていたくなる。

頭を撫でたところで、僅かに動いた気がした。…まずい、起こしたか?と慌てて手を離せば、こっちの心配が無駄だったのかと思わせるほどまた規則的な寝息を立て始めた。

立ち上がり、本を手に取ろうとして机の上に置いてある書類が目に入る。…あぁ、これを届けようとしていたのかと気づいたが、そのまま本を手に取ってベッドに腰掛ける。

ユキの身体に毛布を掛け、頭を撫でてやりながら本を開く。これから特に急ぐ用事もないし、暫くこのまま寝かせてやろう。



彼の部屋。



(起きたか)
(…あれ!?なんで私…)
(随分と幸せそうな顔して寝てたな?そんなに俺のベッドは気持ちよかったか?)
(…いや、それはその//)
(ほら、来い(両手広げ))
(えっ、急に!?)
(なんだ、こうして欲しかったんじゃないのか)
(…うん//)


赤面する主人公にあっさりと胸を打たれるリヴァイ。ゆっくりと近寄って抱き着いてくるユキを両手で抱き寄せ、肩に顔をうずめた。




end.

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