番外編
□この2人には適わない
1ページ/1ページ
「あぁクソッ!俺の負けかよ…っ!」
旧調査兵団本部に来てから大分少なくなった執務を終えて食堂へ行くと、リヴァイ班の面々がトランプを囲んで談笑していた。
「グンタ先輩が負けるのはこれが初めてですね」
「途中まではいけると思ったんだけどなぁ〜…っ」
「ふん…俺から言わせれば、その思い上がりが命取りだったってことさ」
「…オルド、あなたさっきのゲームで負けてたじゃない」
「あれ、お2人さんはもう仕事終わったんですか?」
私たちに気づいたエルドに「あぁ」とリヴァイが答えると、その他のメンバーもこちらを振り返った。相当盛り上がっていたのか、全員が嬉々とした表情を浮かべている光景はこちらまで口元が緩む。大分親睦も深められたようでなによりだ。
「なら、お2人もどうですか?今ちょうど盛り上がってきたところなんですよ」
「…そうだな」
『せっかくだからやろうよ、リヴァイ。こういう息抜きもたまには必要でしょ』
メンバーとの交流も深められるしさ、と付け足すとリヴァイは「あぁ」と言っていつもの席に座った。私も席に座ると「おぉっ」と声が上がる。
「お2人が参戦とは、盛り上がってきましたねぇ!悪いですが、いくらお2人と言えども手加減はしませんよ」
「必要ない、勝負は本気でやらなきゃ意味がないだろう」
「おぉっ!兵長がやる気だ!」
「リヴァイ兵長、私から提案なんですが、せっかくの機会ですし何か賭けませんか?」
『いいねぇのった!』
「悪くねぇな、それで何を賭ける?」
「そうですねぇ、じゃぁユキが秘蔵しているチョコレートなんてどう?」
『却下ッ!!』
「ユキが負けなければいい話だろ?それに元々甘味なんて手に入れるのも貴重なのに、旧調査兵団本部に来てからは更に手に入れにくくなったからなぁ」
『…ぐっ、分かった。しょうがない…じゃぁ私が勝ったら?』
「掃除当番を1回変わるというのでどうでしょうか…?」
「おぉエレン良いこと言うなぁ!さすが毎日玄関掃除をやらされてるだけのことはある」
「ははっ、どうも」
「オイ待て、俺はチョコレートなんてもらっても嬉しくねぇ」
『チョコレートもらって嬉しくない人なんているの?』
「…ユキ、お前は少し黙ってろ」
「じゃぁ兵長が勝った場合は高級茶葉を買いに行かせるというのはどうです?もちろん負けた人の驕りで」
「いいだろう」
「じゃぁ始めるとしますか!久しぶりのチョコレート楽しみだなぁ」
「ふん、…俺は別に甘いものなんて興味はないんだがな」
『絶対に誰にも私のチョコは渡さない。掃除当番1週間分変わってもらう』
「おい勝手に増やすなよユキ、1回分だけだぞ」
「始める前に1つ言っておくが、不正した奴は問答無用で最下位だからな」
『…』
「いやだなぁ兵長、そんな器用なことができる人間はいないですって」
「そういう器用な人間なら1人いるだろ、ユキ…お前に言ってるんだからな」
『…ちっ』
「…てめぇ」
『冗談、リヴァイの前でいかさましてバレない自信ないからやつるもりなかったよ。いくらチョコレートを死守したいからと言ってもさすがに仲間相手に不正はしない』
「さっき舌打ちしたときの顔は結構本気に見えたが」
『…気のせいでしょ』
「不正したらチョコレートは全没収だからね、ユキ」
『私だけ罰厳しくない?』
「それくらいの縛りがないとやるだろう、お前は」
「ユキのトランプの強さは調査兵団内でもかなり有名だからなぁ、俺も今まで1度も勝ったことないが、イカサマ無しの今日こそ負かしてやるぜ」
『私がいつもイカサマしてるみたいな言い方やめてくれる?さすがに仲間相手にイカサマしたことないから。だから今日もチョコレートは死守してみせる』
「ユキさんってそんなに強いんですか?」
「あぁ、酒飲みながらでもほとんど負けたことないってもっぱらの噂だ」
「その時の賭けはだいたいその場の酒代だが、ユキ、お前ほとんど払ったことないだろう」
『ないね』
「じゃぁ今日こそは負かせてやろうじゃねぇか」
「始めるとするか!」
各人の手元にトランプが配られる。そうして運命の勝負が開始された。
**
***
「…強すぎるだろ」
あれから何戦か繰り返したリヴァイ班だったが、結局誰一人リヴァイとユキに勝てる者はいなかった。
他の全員が真っ先に負け、結局リヴァイとユキの勝負になる。その2人の勝率は半々くらいだったので掃除当番は1週間分ほど変わればいいのだが、高級茶葉はいくつ買えばいいのかと全員を震わせた。
「まぁ、全員で1つ買ってくればいい」
そういったリヴァイに全員が感動していたところ、ユキは
『私は負けた分だけ掃除当番変わってもらうからね』
と言って譲らなかった。やっぱりちゃっかりしているなと全員が思ったが、開始前に「1週間分変わってもらう」という宣言を有言実行したところはやはりさすがだと全員が思わされた。
そして全員が同じことを思った。
「もうこの2人と賭け事をするのはやめよう」、と。
この2人には適わない。
(…!…ユキ、どうしたんだそれ)
(…みんな欲しがってたでしょ。板チョコ1枚あげるからリヴァイ以外の全員で分けて食べて)
(ユキ、お前…掃除当番負けた分だけ変われって言われたときは容赦ねぇなと思ってたけど、…やっぱり本当はいい奴だったんだな!)
(いいから黙って受け取ってくれる?)
結局、掃除をしているエルドとグンタに板チョコをあげたユキ。チョコレートの話が出たときに、みんなが喜んでいた表情を思い出してやっぱり少し譲ってあげることにしたのだった。
end.