木漏れ日

□自由の翼
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チャイナ服を纏った小さな身体を傘の影が覆い隠し、熟れた林檎のように赤い髪は風に靡いて揺れていた。

迫り来る巨人に向けられた大きな瞳は恐怖や畏怖など全く感じさせず、ただただ冷たい光を宿らせ巨人を圧倒する。

その光景は異様としか言いようがなかった。巨人が支配するこの世界にはありえない光景であり、あってはならない存在だった。


**
***


ドォォオオオオオン!


凄まじい爆発音と共に傘の先端から発射されたビーム砲は巨人の頭を項ごと吹き飛ばした。

森の木々に止まっていた鳥たちが一斉に空へ飛び立ち、あたりの空気がビリビリと振動する。

まさかこれほど威力があったとは…。前回機械技術が進んでいる星のエイリアンを討伐した時にお礼にとじじいに傘を改良されたのだが、まさかその時につけられたビーム砲がここまでの威力とは思わなかった。

あのじじい人の傘になんてもんとりつけてくれたんだ…、「豆鉄砲よりよっぽどいいものじゃよヒッヒッヒ」とか言ってたけど威力強すぎて使い所がわかんないんだけど。巨人の首吹っ飛んだもの。跡形もないもの。っていうかエイリアンも駆除できたんじゃないの?これで。

倒れこむ巨人の身体を視界の端に追いやり男を見れば、まさに豆鉄砲でもくらったかのような顔をしていた。

うん、だよね。びっくりするよね。私もびっくりした。

しかし男はすぐにいかつい表情に戻り今度は刃を私の首にあてがう。獲物を狩るような鋭い目つきに不覚にも一瞬背中に寒気が走った。


「てめぇは何者だ。3秒以内に答えなければ首を跳ねる」

『名前はユキ。一応エイリアンハンターをしてる』

「その傘はなんだ?今何をした?」

『前に手を貸したところのじじいに改良されてバズーカが出るようにしてもらったんだけど、私もここまでの威力があることは知らなかったから…うん、マジで。わざとじゃないんだって』

「…」

『…』


答える度に男の眉間のシワが深くなっていく。それと同時にあたりの空気が1、2度ずつ下がっていくような気がするのも気のせいではないだろう。

私の発言にみるみる機嫌が下降していっているのは火を見るよりも明らか。「何言ってんだコイツ」という言葉を目が語っている。

いや、だから私もこんなに威力が出るなんて知らなかったんだって。一発じじいの屋敷でぶっ放してやりゃよかったと思ってるよ。


『もう質問は終わり?だったら、私の質問も聞いて欲しいんだけど』


そういった時ドド、ドドッと馬の蹄をかく音が森の奥から聞こえてきた。一人や二人ではない、かなりの大人数のものだと傘を拾い上げようとすればひんやりとした刃が押し付けられる。

わかりましたよ、何もしませんよと言いながら再び傘を地面におく。


予想通り森の奥から現れたのは数十名の人間だった。先頭を走っていた金髪の男が私と男を数秒見比べた後、口を開いた。


「これはどういう状況だ、リヴァイ」

「ここで巨人と戦っていたこいつと遭遇した。詳しいことまでは今問いただしていたところだ」

「先程の砲撃は?」

「こいつがこの傘で撃ったものだ」


一瞬驚いたような表情が浮かべられたものの、そうかと金髪は頷き近づいてきた。私に敵意むき出しの視線を向けてくる周りの人間が金髪を止めようとしているところを見ると、どうやらこの男がこの中で一番偉いらしい。

あまり近づくなというリヴァイの言葉に分かっていると金髪はある程度距離を開け、私に向かって口を開いた。


「君は何者だ?」

『ユキ』

「そうか。ユキ、君はここで何をしていた?」

『気づいたらここにいて、巨人に襲われて戦ってたらこの男に捕まって今この状況になってる』


金髪とリヴァイが視線を合わせると、ため息をつきながらリヴァイは続けた。


「俺も同じことを聞いたが返ってきた返事は同じだ。加えてこいつは巨人とこの傘で戦っていた。立体機動装置もない状態でな」

「ここの二体の巨人をやったのは?」

「一体は俺だがもう一体はお前も聞いた砲撃音だ。傘から撃たれた砲撃が巨人の頭部を項ごと吹き飛ばした。」


ざわざわと後ろの兵士達がざわめき始める。あぁ、面倒臭い。他の星に行ってこういう反応をされるのはもう何回目だ。もういいから。こういうノリもう充分だから。

さらさらと風が木々を揺らし、その度に差し込む太陽の光が視界をちらつく。両手足は先ほど包帯を巻いたからよかったが、顔は何もしていない。

こいつらを蹴散らしてこの状況から逃げ出すことは簡単だと思う。でも、そうしたらまた巨人と戯れる途方もない時間がくるだけだ。

話が通じる分、巨人と戯れるより全然いい。早くお前達の村でも町でもなんでもいいから連れて行ってくれ…と思っているとエルヴィンが「彼女を保護する」と言った。

やった。意外と話のわかる奴で助かった。


「正気か、エルヴィン?」

「あぁ、このまま放って置くわけにもいかないだろう。壁の外にいる人間を保護したという事例は前にもある」


…チッと舌打ちをしながらこちらを睨むリヴァイに舌を出してみせる。こめかみに青筋が立っていたが気にせず傘を拾い上げようとすると、先に拾われ取り上げられた。


『それ私のなんだけど』

「お前のような得体の知れないクソガキに渡せるか。これは俺が預かる」

『何当然のように言ってんの?人様のものを勝手にとるなって親に言われたでしょうが』

「ピーピー喚いてねぇでさっさと荷台に乗れ。置いていかれたいのか」


ドカッと尻を蹴り上げられ、手首を掴まれたかと思えば荷台に放り投げられ…ゴッ、と鈍い音が頭に響く。今絶対変なところ打った。


「いいか、壁内につくまで大人しくしてろ。少しでも変な行動をすれば殺すからな」

『ちょっと待って。大人しくしてるから傘は返して』

「だめだ。申し訳ないが我慢してくれ」


エルヴィンが横槍を入れてくる。相当警戒されているらしい。全然申し訳なさそうな顔をしていないのが気になったが、こちらも譲るわけにはいかなかった。

目的地とやらまでどのくらいかかるか知らないがこのまま太陽の光に当てられるのはつらい。今でももうクラクラし始めている。


「ケイト、彼女の傷を手当てしてやれ」

「はい」

『怪我なんてしてないけど』

「その包帯は違うのか?」

『あぁ、…これは陽の光を遮るためにしてるだけだから別に怪我してるわけじゃない。』


どうやらこの包帯が要らぬ勘違いを招いたらしい。は?と疑問符を浮かべられるがこの反応も慣れたものだ。


『私は陽の光に弱いから傘を常に持ち歩いてる。それを取り上げられたら私は生きられない…傘は諦めるからそのマント貸して、日よけにするから』


エルヴィンとリヴァイは納得したような表情は浮かべなかったものの、互いに視線を合わせリヴァイがマントを放り投げた。

深緑色のマントが荷台に乗せられる。「大人しくしていろ」ともう一度念押しをされ、荷馬車はゆっくりと走り出した。

森を抜ける前にマントを被り陽の光に備える。荷馬車を引く兵士が時折チラチラとこちらを見てきたが、そんなものは今更気にならなかった。

前を走る兵士達の背中に掲げられている翼の紋章が風にのって揺れている。この団体を象徴するマークだろうか…被っていたマントを脱いで見てみれば、やはり翼の紋章が大きく飾られている。

深緑色のそれにはところどころ血痕が滲んでいた。



**
***



ーー…ガシャン。


『は?』


目の前には鉄格子。手と足には枷がつけられ暗闇を炎が照らし出す。目的地に着くや否や、私は地下牢にぶち込まれた。


『ちょっと待って。…え?なんで地下牢に入れられてるの?』

「許可なく壁外をうろついてたんだから当たり前だ。太陽の光が苦手なんだろう?よかったな。」

あいつ絶対ぶん殴ってやる。

『許可なくうろついてたっていうか、勝手に飛ばされてあそこに転送されただけなんだけど』

「てんそう?」

『宇宙海賊春雨の奴にとばされたんだよ。もちろん私は構成員じゃないし、ただ元の場所に帰りたいだけ、わかる?だから宇宙船を貸して』


借りパクしないから、というとエルヴィン、リヴァイ、そして胸に薔薇の紋章をつけた男が互いに目を合わせた。

地下牢に妙な沈黙が流れる。開口をきったのはリヴァイだった。


「どうやら壁外にでて頭がおかしくなっちまっているらしい。頭がおかしいから壁外なんかにいたのかもしれねぇが」

なんだとコノヤロー

「前に保護した人間は記憶を失っていたという。それと同じかもしれない」

いや、失ってないから。大丈夫だから。と言ったものの聞き入れてもらえず、その後どこからきただの何者だなど永遠と質問攻めにされた。



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