番外編

□番外編(第1章中)
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御令嬢からの指名(29P〜33P)全5P



『明日から内地に?』

「あぁ、よろしく頼む」

『…はぁ』


突然エルヴィンに呼び出されたかと思えば、告げられたのは内地の定期報告へミケと一緒に行って欲しいという内容だった。


『私は別にいいけど…、いいの?リヴァイが戻って来るまで兵士長も副兵士長も不在になるけど』

「そこは心配しなくていい、空いた穴はハンジがなんとかするだろう」

「ええ、私!?」


唐突に話を振られ、ハンジは焦ったように口を開く。何やらごちゃごちゃと抗議を始めたが、あっという間にエルヴィンに丸め込まれるんだろうな。

それにしてもミケと二人でというのは珍しい。改めて思えば初めてかもしれない。

隣を見上げるとミケに「よろしく頼む」と頭を撫でられた。


「それにしてもいきなり明日なんて急すぎない?」


そう言ったのはハンジ。
やはりエルヴィンに丸め込まれたようだ。


「私が思うにエルヴィン…あなたもしかしてリヴァイがいない時を狙った?」

『は?』

「さすが頭の回転が速いな」

「やっぱり?」


何やらアイコンタクトをしている二人に視線を向けると、私の視線に気づいたハンジはけらけらと笑った。


「リヴァイがいるとユキの許可をとるのは面倒だからねぇ。今朝リヴァイが出発してから言おうとしてたんでしょ?」

『そういうこと?』

”…あぁ”、と答えるエルヴィンに思わず苦笑する。


『私の許可をリヴァイが渋るわけないじゃん。きっと一言”行ってこい”で終わると思うけど』

「ユキは知らないだけだって。前に夜会に行ってもらった時もどれだけ苦労したか…」

『ふーん?』


大げさにため息をつくハンジに何とも言えない返事を返す。何故リヴァイが私の許可を渋る必要があるのか…全くもって分からない。


『それより、どうして今回私が行くことになったの?定期報告はミケとリヴァイが行ってたのに』

「その事なんだが、今回はユキにご指名があってね」

『私に?』

「サラ家のご令嬢が君に会いたいと言ってきたんだ」


サラ家と言えば調査兵団のパトロンの一つである富豪の家。…そのご令嬢が私に会いたいだなんて、一体どういう風の吹きまわしだろう。


「ユキの活躍はリヴァイと同様、人々に知れ渡っているからな。そのユキに一度あってみたいらしい。君とも年が近いはずだ、…確か2つ上だったか」

『…会って何を話せって?ご令嬢と世間話なんて間が持たないんだけど』

「当日は夜会が開かれるから、その時に少し顔合わせするだけさ。構えないでいればいい」

『夜会!?』


思わず顔が引きつる。
またあの堅苦しい場に行かなきゃいけないのかと、エルヴィンに視線を向けるとにっこりと笑みを浮かべられた。


「すまねいね、ユキ。」

『…』


エルヴィンの無言の威圧に何も言えなかった私は再び内地へ行くことになった。


**
***



「…どういうことだ」

「ユキにはミケと一緒に定期報告に行ってもらったよ」

「それはさっき聞いたんだよ。どうして俺の許可もなく勝手に決めやがったと聞いている」

「ユキは君の部下だが、君も私も部下だ。何か文句はあるか?」

「…てめぇ」


目の前で平然と言い放つエルヴィンに怒りが湧いてくる。

帰ってきてあいつの迎えがないと思って聞いてみれば、「ユキにはミケと一緒に定期報告に行ってもらった」ときた。

何がどうなってやがる?
どうしてあいつが行く必要がある?

第一何故それを俺に言わなかった。

その全てにイライラしてどうしようもない。特に引っかかるのは「ミケと一緒に」という部分だ。

別にミケがユキになにかするんじゃないかとは思っていない。…が、あの二人にはどこか通じているものがある。


ユキはミケを兄のように慕っているし、ミケもユキを年の離れた妹のように思っている。

ミケとユキはたまにアイコンタクトをしては、お互いに頷き合っていることもある。

あの意味は未だに俺には分からない。意味があるのかどうかも分からないが、言葉で言わなくても分かり合っているという感じが俺の狭い心を揺さぶってくる。


…まぁ、他の得体の知れない兵士と一緒に行かれるよりはずっといいが…。


「明日には戻ってくるんだろうな」

「あぁ、その予定だ」

「…チッ」


あいつは大抵のことは俺の言うことをきく。

そんなところが健気で可愛らしいと思うのだが、たまにこういう風に勝手に行動するところがある。

後は単に忘れているときだ。

もともと一人で行動していた自由奔放なユキがよくこれだけ素直に言うことを聞くなとは思うが、俺がいないとなるとすぐこれだ。

「俺がいない間勝手に行動するな」と言えば今回のようなことにならなかったかもしれないが、俺にそこまで言える権利はない。「は?」という顔をされるのは間違いない。

…どうにかならないものか。
今度どうやってユキを言いくるめるか考える必要があるようだ。



**
***



ーー…その頃内地では。


『お腹すいた』

「もう少しの我慢だ」


朝一で馬に揺られてやってきたと思ったら報告やら会議やらで連れ回され、やっと一息ついたと思ったら今度はドレスに着替えさせられる。

こんな状況だというのに隣にいるミケは本当に大したものだと思う。元からそんなに喋る人じゃないからかもしれないが、文句の一つも言わずちゃくちゃくと色んなことを片付けてしまうのだから。

…そういうところはリヴァイに似てるよなぁ。なんてぼんやりと思う。

しかも、きつくなくて全面的に優しいし。変なクセさえなければすごい人なんだけどなぁ。


そんなことを考えているうちに夜会が始まり、各々好き好きにテーブルにある食事を取っていく。前回と同じように並べられた料理は本当に美味しそうなものばかりで思わず手をつけたくなってしまう。

…が、今日はサラ家のご令嬢と会わなければいけないという面倒くさい仕事が控えているのだ。浮かれてばかりではいられない…。

本当に面倒だ。
ご令嬢の暇つぶしだか何だが知らないが、私を巻き込まないでほしい。一人でお城で遊んでればいいのに。

思わず大きなため息がでる。


『これって私から会いに行かなきゃいけないの?』

「いや、向こうから来るだろう」

『来るなら早く来てくれないかな』

「我慢しないで食べればいい」

『いいの?』

「あぁ、折角用意されたものを食べないのは勿体無い」


”食べるだろう?”
と言ってミケは料理をお皿に取ってくれた。甘やかされてるなぁと実感しつつ、もし私に兄がいたらこんな感じだったのかもしれないと思った。

リヴァイと一緒だったらこんな展開はまずないだろう。食い意地をはるな、少し黙ってろ、とさながら犬の「待て」のようにお預けをくらうはずた。


「ユキ副兵士長、ミケ分隊長」


もごもごと料理に夢中になっていると後方から名前を呼ばれて顔を上げる。そこには一人の男と、如何にもお嬢様風のドレスを纏った二人が立っていた。

男は父親…つまり投資してくれている張本人。彼はへらりと笑って口を開いた。


「わざわざ足を運んでもらって悪かったね」

「いえ、気になさらないでください」

「こちらが私の娘でミレーヌと言うんだ。そちらのお嬢さんがユキ副兵士長だろう?」

『はい、ご招待いただきありがとうございます』


ぺこりと頭を下げると”いいよ、そんな堅苦しいのは”と言われて頭を上げる。

ミレーヌというご令嬢はエルヴィンの言うとおり私より少し年上で、育ちの良さが滲み出ているような雰囲気がある。


(…苦手だ)

昔からこういうタイプの人間は好かない。そもそも人種が違すぎる、考え方もあったことなど一度もない。

だが、今回はあくまでも仕事。
この人がどうして私に会いたいと言ったのかは分からないが、そつなくこなしてさっさと帰ろう。


「会えて嬉しいわ、ユキ」

『こちらこそ』


私は久し振りに引きつった笑みを浮かべた。



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