番外編

□番外編(第1章中)
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健気な想い(49P〜52P)全4P



「最近ミケが変なんだよね」

「変なのはお前だろう。」

「…いや、それは分かってるんだけどさ」


真夜中にいきなり人の執務室に来て何を言い出すのかと思えば…、クソメガネはあろうことか他人の心配を口にした。人の心配より自分の心配をしろと言うと、鋼の心を持つクソメガネは少しも気にすることなく言葉を続ける。


「私が夜遅く部屋に戻ってくると明かりがついていないのに、お風呂からあがってくると明かりがついてたりするんだ。これって変だと思わない?」

「…そんなところまで見ているのか?お前は巨人の観察にしか興味がない奴だと思っていたが」

「もちろん私は巨人一筋だよ。ミケの部屋はたまたま私の部屋の窓から見えるからちょっと気になっただけなんだけど、おかしいと思わない?」


俺は何がおかしいんだ?とクソメガネを睨みつけると、奴は許可もなく勝手に寝転んでいたソファから身を乗り出して口を開いた。


「私が夜遅いのはいつものことだけどさ、ミケは普段早寝早起きっていう超規則的な生活を送っているはずなんだ。それなのに最近は夜遅く帰ってきてるみたいなんだよ」


分隊長としての仕事は今は特にないはずなのに。とハンジは続ける。

確かにこいつは書類はろくに出さないくせして真夜中まで巨人の研究に没頭していることが多い。対してミケは急ぎの仕事がなければ比較的規則正しい生活を送っている。

それがここ最近夜遅くに部屋に帰ってくるとこいつは言うが…。あいつもいい大人だ。餓鬼じゃあるまいし少し夜遅くまで何かしているからと言って周りがとやかく言うことでもないだろう。

まぁ、ユキのように朝寝坊をする危険性があるなら話は別だが、あいつに限ってそんなことはない。他人の私生活のことなんてそいつの勝手だろうというと、ハンジは「そうだけどさぁ」と不満そうな表情を浮かべる。


「女でもできたのかな?」

「別におかしな話じゃないだろう」

「えぇー、だってミケだよ?」

「あいつは変なクセがあるだけで優秀な兵士だ。人間性も悪くないし、不思議なことじゃないだろう」

「…そっかぁ、なんか同じ分隊長として複雑な気分だなぁ。ちょっと調べてみようかな」

「やめておけ。変な横いれはするもんじゃねぇ」

「そんなことはしないよ、私だって大人だからね。ただちょっと気になるじゃない」

「期限も守らねぇ奴を立派な大人とは言わないな」

「厳しいなー」


へラリと笑ってソファに寝転がるクソメガネに一発蹴りを入れてやれば、「痛い」と喚きながら転がり落ちた。

汚い身体でソファを使うな、即刻離れろと言えば「はいはい、分かったよ潔癖」と渋々立ち上がったハンジのケツを蹴り上げてやる。


「痛いなぁ暴力魔!君の蹴りは冗談じゃない威力なんだよ!?」

「手加減してやってるだろ。それよりお前何しに来たんだ?まさかこんな下らない話をするためだけに来たわけじゃないよな?」


そういえばクソメガネは、「あぁ」と何かを思い出したように手を叩いた。


「ユキに用事があってきたんだけど知らない?」

「あいつなら部屋に戻ったぞ」

「え?部屋に行ってもいなかったからここだと思ってきたんだけど…、すれ違っちゃったのかな?」

「あいつが部屋に戻ったのは30分も前だが?」

「…え?それ本当?」

「嘘をついてどうする」

「…」

「…」


一瞬の沈黙が落ちる。きっと頭の中に思い浮かんだ疑問は同じだろう。

案の定、クソメガネは俺が思っていることと同じことを口にした。


「… じゃぁユキはどこに行ったんだろ?」


部屋に戻ったのは30分も前のこと。ついさっきここにきたクソメガネがユキの部屋に向かった頃にはとっくに部屋に戻っていたはずだ。

それなのにユキは部屋にいなかった。どこかに出かけたのか?…いや、こんな真夜中に出かけるわけがない。他の兵士ももう殆どが眠りについている頃だ。

…だとしたら、ユキは今どこにいる?


「リヴァイ、本当に知らないの?何か聞いたりは?」

「してねぇよ。またどうせどこかほっつき歩いてるんだろ。」


本当はすごく気になって仕方が無いが、つい先ほど「私生活は人それぞれだろう」なんて言っておいて今更気になるとは言えない。

こんな真夜中に部屋を出て行ったユキがどこで何をしているのか、気にならないはずがないが…、自分が言った通り私生活は人それぞれだ。

いくら副兵士長で自分の直属の部下だと言っても私生活をとやかく言う権利はない。

…まぁ、一度部屋にいなかったからって何だ。たまたまだろうと自分を無理矢理納得させようとしてると、クソメガネがとんでもないことを言い出した。


「そう言えば昨日もユキいなかったんだよね」

「…は?」


昨日もだと?今日はたまたまいなかったんじゃなかったのか?


「最近戻ってくるの遅いみたいだし」

「…」

「私はてっきりここに遅くまでいると思ってたんだけど」

「…」

「…」

「…。」

「ねぇ、気にならない?」


ニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべながら問いかけてくるクソメガネに怒りを覚えたが、感情を出したらそこで負けになる。気になると言っているようなものだ。


「ならねぇな」と平静を装って答えるとその答えが気に入らなかったのか「えぇ〜」と不満そうな声が返ってくる。

お前が何を考えているのか知らねぇし知る気もないが、誰がお前の思い通りにさせるか。


「だって2人揃って夜遅くにこそこそやってるってことじゃない?これってさぁ、つまりそういうことじゃないの?」

「何馬鹿なこと言ってやがんだてめぇは」

「まぁミケとユキに限ってそんなことはないだろうけど」

「…」


(明らかに気になってんじゃん)

ハンジは無言で書類と向かい合っているリヴァイを見てため息をつく。

さっきまで動いていたペンも止まっているし、目だって書類の文章も追わずに一点だけを見つめている。眉間に寄っている皺だってさっき私を睨みつけていた時より数段深く寄せられてるし。

リヴァイは普段何を考えているのか分からないけど、ユキのことになるとすぐ顔に出る。ただ、絶対にそれを口に出したりはしないが。


「明日ユキのことをつけてみようかな」

「…」


…あ、反論しなくなった。さっきまで余計な真似をするな、とか散々止めてきたくせにユキの事となるとすぐこれだ。リヴァイも相当気になっているに違いない。

こんな真夜中にユキがこっそり部屋を抜け出してミケと何かをやっているのかもしれないなんて聞かされたら気になって当然だろう。

…ふふふ、知りたくて知りたくてどうしようもないくせに素直になれないリヴァイのために、私が一肌脱いであげようじゃないか。

っていうか、ただ単に私もユキとミケが何をやってるか気になってるだけなんだけどね!


「そろそろ戻るね、リヴァイ」


私は「早く出ていけ」と言わんばかりの視線を背中に受けながら、パタンと扉を閉めてリヴァイの元を後にした。


**
***


『終わったー!』


カランとペンを置いて気持ち良さそうに伸びをするユキに、いつものように「今日はもうあがれ」と言う。

時間もいい頃合いだ。懐中時計を確認したユキもそう思ったのか、『じゃぁ、お言葉に甘えて。』と机の片付けをして席を立つ。


[だって2人揃って夜遅くにこそこそやってるってことじゃない?これってさぁ、つまりそういうことじゃないの?]


昨日の会話が頭をよぎる。今日問いただそうと思っていたが結局言い出せず、ついにユキは『おやすみ』と言って出て行ってしまった。

何をやっているんだ俺はと情けない自分に溜息をつく。たった一言「昨日の夜何をしていた?」と聞けば済むことを、どうして言えなかったんだ。

…まぁいい。本人に聞かずとも後をつければ分かることだ。ハンジも同じようなことを言っていたが警戒心が強いユキをそう簡単に尾行できるはずもない。あのクソメガネはすぐに見つかるだろう。

だが、自分で「余計なことはするな」と言っておきながらユキの後をつけているところをハンジに見られるわけにはいかない。…と、なればつけるのはユキではなくミケのほうがいい。

ミケがユキと会っていないと分かれば一つの不安は解消される。

…だがあのミケだぞ?ミケはユキの事を年の離れた妹のように思っているはずだし、ユキもミケを兄のように慕っている。

他の兵士に比べたら二人の仲はいいのかもしれないが…。あの二人に限ってまさかハンジが思っているようなことはない…、…はずだ。


「…チッ」


ここでうだうだ考えていたって何も変わらねぇ。取り敢えずミケをつけてやろうとカタンとペンを置いて立ち上がった時、トントンと扉がノックされた。

誰だこんな時に!…と思ったがあの扉を出ようとしていた以上無視もできず「入れ」と言うと、現れたのはハンジのお目付役であるモブリットだった。


「夜分遅くに申し訳ありません。ハンジ分隊長から先日の報告書を預かってきました。」

…チッ、タイミングが悪いがしょうがない。そもそもこの書類は昨日が提出期限のものだ。俺がまだ執務室にいるのを知って急いで届けに来たのだろう。さすがあのバカのお目付役をやるだけあって優秀な兵士だが…今の俺にとっては邪魔でしかない。


「あぁ、ご苦労だった」

「はっ」


焦る気持ちを抑えながら書類を受け取ると、モブリットは見事な敬礼をして出て行った。

足音が遠ざかったのを確認して書類を引き出しに放り込み、部屋を出てミケの部屋へ向かったが既にミケの姿はなかった。



**
***



次の日もまた次の日も、俺は真実に辿り着くことはできなかった。

どういう訳かハンジの部下であるモブリットがユキの退室と同時に尋ねてきやがる。なんだこのタイミングは、わざとなのか?と疑いざるを得ない。

こいつが悪くないことはわかっている。大方ハンジにこき使われているのだろうが、何もこのタイミングでくることないだろうと睨みつけてやると困ったように笑っていたが気にせず睨みつけてやった。


聞いてもいないのに報告しに来たハンジの話によると、俺が尾行に失敗しているここ最近も二人の帰宅は遅かったらしい。

しかもよく観察してみれば帰ってくる時間はほぼ同時だという。何をしているんだ?と気にならないわけがない。数日前にハンジが言っていた事がまさに確信に変わってきているのだ。

あの二人に何かあるとは思えないが、人の関係というものは他人から見たら分からないものだ。もしかしたら…と考えると頭痛がした。


「私も突き止めようとしてるんだけど、いつの間にか見失っちゃうんだよ。まさかつけられてるのを警戒してるのかな?でもそれって人に言えないことをやってるからだよね?」


ハンジのその言葉はいつまでも俺の気持ちを焦らせてきた。

話を聞けばやはりユキはハンジに尾行されていることに気づいているのだろう。気づいていて、上手くかわしているのだ。

どうしてそんな事をする必要がある?やっぱり人に見られたくないことをしているからか…?

昼間の様子を見ても別に変わった様子はないが…、一体二人はどういう関係になっているんだ!?


**
***


次の日、ユキが部屋を出ると同時に扉がノックされた。またあいつか!と思い派手にトアを開けるとそこには勢い良く出てきた俺に驚いたのか目を見開いてこちらを見上げるハンジの班員である二ファが立ってた。

もう仕組まれているとしか思えなかった。



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