番外編

□番外編(第1章中)
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その笑顔の向ける先(53P〜54P)全2P



「わっ!!」

『…』

「…」

『……』

「その目悲しくなるからやめてくれる!?」


自室の扉を勢い良くあけて飛び込んできたハンジに冷たい視線を送る。何してるんだ?と沈黙を続けていれば私の目がよほど堪えたのか、ハンジは瞳に涙を滲ませながら言った。

いや、それより自室をノックもしないでいきなり開けてきたことについては何もないのか?着替えでもしてたらどうするつもりだったんだ?

何をしたかったんだと問えば、ハンジはさっきまで落ち込んでいたのはどこへいったのやら、目をキラキラとさせて「ユキを驚かそうと思ったんだよ!」と言う。もう理解できるはずもなかった。


『…一応聞くけど、何で?』

「リヴァイを驚かそうと思ってたからさぁ、その予行練習。でもユキで失敗したらリヴァイは無理だろうなぁ」

『いや、だから何で?』


どうしてリヴァイを驚かそうとしているのだろうか…どうせ下らない理由なのだろうが…案の定ハンジは「リヴァイが驚くところをみたいじゃないか」と陽気に言った。

これには『暇なの?』と思わざるをえない。ただただ冷たい視線を送る私にハンジは「何か対策を考えなきゃねー」と心底楽しそうに部屋から出ていった。

どうしてリヴァイを驚かせようとしたのかは分からないが、始めからハンジの考えていることが分かるはずがない。研究に行き詰まったとか、なんとなくとか…とにかく下らない理由だろうがどうせすぐに飽きるだろうと放っておくことにした。


**
***


寝て起きたら忘れているかと思っていたが意外にも覚えていたらしく、柱の影に隠れてコソコソとしているハンジを今日だけで何度も目撃した。

しかし、リヴァイも当然ハンジが自分に何かしようと気づいているらしく、あえてハンジの隠れている前を通ろうとはせず上手く避けている。

あれだけ意気込んでいたら気配が丸わかりだ。リヴァイも流石に悪い予感を感じているんだろう…まさか自分を驚かそうとしているとまでは分からないだろうが、関わらないことに越したことはないのは間違いない。

私もあんな変な気を出して柱に隠れているハンジの前を通ろうとはまず思わない。


「クソッ!どうして今日に限って向こうの通路から行くんだよ!?」


だからバレてるんだよ…と思わずつっこみたくなる。

そんなこんなで今日一日ハンジを避けてきたリヴァイと廊下を歩いていると、隣を歩くリヴァイの足が一瞬遅くなった。躊躇うような仕草にどうしたのだろう?と思ったが、すぐに柱の影に隠れているハンジに気づき他の道を考えているのだろうと理解する。

…が、目的の執務室に行くにはこの道を通るしかない。リヴァイは心底「めんどくせぇ」という表情を浮かべながら歩みを進めた。


「わっ!!」

「…」


予想通り柱から全力で飛び出してきたハンジに、これまた予想通りリヴァイが冷たい視線を向ける。

暫くの沈黙を破ったのは、
リヴァイの低い声だった。


「…隠れてこそこそ何をやっているかと思えば、…こんなくだらないことだったのか?」

「くだらなくないよ!しかもばれてるし…クッソ覚えてろよッ!!」


ハンジは心底悔しそうに絵本の悪役のような捨て台詞を言い残して廊下の先へ走り去っていった。

結局昨日からなにも進歩していなかったのはこの際おいておこう。こちらに視線を落としたリヴァイの顔には「理解できない」と書いてあるようだった。


「…なんだあいつは、何がしたかったんだ?」

『リヴァイを驚かせたかったんだって。昨日予行練習とか言って私のところに来た』

「どうしてそんな発想になる」

『知らない、聞くのもめんどうだった』


リヴァイは呆れたようにため息を1つつくと、再び執務室へ歩みを進めた。


**
***


『お前は本当に次から次へとよくもまぁ…驚かしたいとか馬鹿言って失敗してたのにまだやるの?』


目の前にはキラキラと目を輝かせたハンジ。リヴァイがエルヴィンのところに用があるからと言って部屋を出て行ったと思った途端、入れ替わるように入ってきたハンジは私の机に両手をつき、前のめりになる勢いで「リヴァイを笑わせようと思うんだ!」と言った。

ハンジの奇行はいつものことだが、昨日といい今日といい本当にどうしたんだ?

昨日あれだけ見事なほど恥ずかしい失敗をしたくせに全く懲りていないらしい。この心の強さは尊敬にも値すると思う。


『で、どうして一々私に報告してくるの?やりたいなら勝手にやってくれる?っていうか私を巻き込まないでくれる?』

「ユキなら何か良い方法知ってると思って」

『あんたのほうが長く一緒にいるだろうが』

「今となってはリヴァイのことはユキが一番よくわかってるじゃない」

『なにそれ』


適当に話を聞き流しながら書類を作成していると、ハンジは「ねぇどうやったらいいと思う?ねぇねぇ!」と机をバンバン叩いてきた。


『ああもう煩い!集中できない!』

「じゃぁ教えてよ、リヴァイを笑わせる方法」

『知るか!』


私は頭を抱える。その間も「ねーねー」と言ってくるハンジの頭を殴れば、ゴッという鈍い音が鳴った。


『で、どうせくだらない理由だろうから聞きたくないけど、リヴァイを笑わせたいと思った理由は?』

「いたた…、だってリヴァイって普段笑わないし、どんな風に笑うのかユキも見てみたいと思わないの?」

『確かに大口を開けて笑うことはないけど、結構笑ってるよ』

「え、いつ?」

『ハンジに向かって「はっ」とか』

「それ私を馬鹿にしてるか呆れてる時でしょ!?違うんだよ、あんな虫けらを見るような目で笑ってる顔なんて望んでないんだよ!」


ダンッ!と机を叩く音が耳に響く。これは部屋の外まで聞こえてるんじゃないだろうか。

興奮しきったハンジをなだめる意味も込めて、私はゆっくりと口を開いた。


『…じゃぁ一体どうしたいの?』

「大口開けて笑うところが見たい」


残念だけどそれは無理だろう。さっきも言ったがリヴァイは大口を開けて笑うような人じゃない。


『…無理だと思うけど』

「ユキにもできないことを私がやってみせる!待ってろよリヴァイ!あはははは!」


高らかに響く笑い声にため息を零す。

一つだけ確かなことは、これからハンジに付き合わされるリヴァイが可哀想だということだ。



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