番外編
□女子力とは?
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ぽとり、フォークから溢れたおかずがテーブルに落ちた。
それを躊躇なく拾って口の中に入れたペトラにオルオが「あのなぁ」と口を開いた。
「お前は本当にガサツだな」
「なによ、煩いわね…別にいいじゃない」
「女だったらもう少しなんとかならないのか?お前は訓練兵のときからそうだ。」
偉そうに言うオルオに言い返そうと口を開こうとした時、同じテーブルに座っていた兵士も何故か次々と口を開いた。
「もう少し女子力ってやつを意識したほうがいいんじゃないか?」
「男にモテないぞ、ペトラ」
「そんなんじゃ俺の妻にはなれねぇぜ」
ここぞとばかりに言ってくる男共に限界を迎えたペトラは、ダンッ!とテーブルを叩いた。
「しつこいわね!」
ふんっ、とペトラはそのまま席を立ち去っていく。
あーあ、大変だ。機嫌損ねちまった…という兵士に対しオルオは「おい、聞いてるのかペトラ!俺はお前のことを思ってだなぁ!」と続けている。
案の定「余計なお世話よ!」と一蹴されたのだった。
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***
なによなによっ…みんなして私のこと馬鹿にして。女子力なんて私たち兵士には元々無縁のものだっていうのよ。そんな夢を押し付けるなって話よね。
ペトラは壁を蹴りつけた。完璧に唯の八つ当たりだ。
だが、直後に後悔した。
「どうしたのペトラ、そんなに怒っちゃって」
「…ハンジ分隊長」
あろうことか今の八つ当たりをこの人に見られてしまったらしい。冷や汗が背中を流れていく。
この人に捕まったら絶対に逃げられない。壁を蹴りつけていた言い訳なんて思いつかなかったペトラは詰め寄るハンジに観念して先ほど起きたことを話した。
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「ふーん、なるほどねぇ。それはオルオたちが悪いね」
「そうですよね!だいたい私たちに女子力なんて求める方がおかしいんですよ」
「まぁ、でも確かに男子にとったら女子力って魅力的なんだろうね。特にペトラが言うように兵士の中にはそう言う女の子が少ないから余計にさ」
「…だからって私にそれを求められても困ります」
「じゃぁペトラもさ、女子力つけて男共を見返してやればいいじゃない」
…は?とペトラはハンジを見上げた。自信満々、やる気満々なのは嬉しいがどうやって見返すと言うのだろうか?
失礼なのは承知だが、この人から女子力というものが学べるとは思えない。…なんなら自分の方が少しくらいは上なんじゃないかと思う。
そんなペトラの視線に気づいたのかハンジは「私が教えるんじゃないよ」と続けた。
「つまり、女子力が高そうな人を観察してみるんだよ。それならうってつけの人がいるじゃない」
「うってつけの人?」
「そ。数多くの男から見初められる女子力高そうな人間がさ」
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そうしてハンジ分隊長についていくと、そこにいたのはユキだった。…まぁ、予想はついていたが。
影からこっそりと顔を出してユキを覗き見る。まだ寝起きのようで眠たそうに目を擦っているが、これ以上近づいたらバレるからとハンジ分隊長は目を凝らしている。
「男からモテるってことは、つまり女子力が高いってことでしょ?そんなユキを観察して勉強させてもらうのさ」
「…なるほど」
確かにユキは兵士からも好かれているし、他の兵団からも声をかけられると聞いたことがある。
それはきっと東洋人としての特徴的な容姿だけではないはずだ。男が目を惹かれる何かが…彼女にはある。
なんて言ったってあのリヴァイ兵長からも一目置かれるくらいなんだから。
……しかし、それから1日ずっとユキを追っていたが、女子らしいところは見られなかった。
朝はいつも通り寝坊し、ギリギリの時間で眠そうに目を擦りながら食堂で朝食を摂る。
何故そうなったのかは分からないが、片方襟が入ってしまっていたユキを見兼ねたリヴァイ兵長が直してやっていた。
訓練になれば眠そうな表情は一変。他兵士を置き去りにして立体機動で飛び回り、かと思えば休憩時間に居眠りをする。
昼も夜もぱくぱくと一人前を平らげ、余っているのを発見するや否やお代わりをしてそれもぺろりと平らげた。
その後、リヴァイ兵長と執務室に篭り、暫くして出てきたと思ったら談話室で酒を囲んでトランプをする兵士に混ざって賭け事に夢中になる。
誰よりも多く酒を飲んだユキはカード片手にこくり、こくりと居眠りをしてしまい…周りの兵士は微笑ましいとでも言わんばかりに笑いあっていた。
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***
「おかしいな…見れば見るほど女子力の欠片もない」
ハンジ分隊長は今日1日、肩見放さず持っていた謎のメモを見ながら頭を抱えた。
確かに、彼女が言うように今日1日ユキを観察していたが世間一般が言うような女子力らしいものは見つけられなかった。
ユキは兎に角自由奔放なのだ。飾ったりしない、常に自然体でいて気づいたら自分の側にいて笑っている。
自分の本質は見せないようにしながら、それでも相手の懐に入るのに彼女は特別長けている。
「そもそも女子力ってなんだろう?」
「例えば、…えっーと…料理ができるとか器用だとか、おしゃれとか…ですかね」
「よし、ちょっとまとめてみよう」
そう言ってハンジ分隊長は「女子力とは」というタイトルの下に思い当たる女子力っぽいことを書いていく。
料理ができる ○
器用 △ やろうと思えば?
か弱い × 実力No.2
おしゃれ × 余計なもの嫌い
おしとやか ×
かわいい ○
少食 × 暴飲暴食
「…なんとなくぼんやり書いてみたけど、どっちかといったら平均以下なんじゃない…?これ」
「…いや、でもほら…ユキって髪綺麗じゃないですか」
「生まれつきでしょ?」
「…は、肌も綺麗ですよ」
「化粧しないからね」
「…落としたものを拾って食べません」
「大抵の人がそうだと思うよ」
沈黙が落ちる。もう女子力の定義すらぼんやりとしてきてしまった。だいたいなんだ、この「おしとやか、かわいい」って。
これは女子力というのか?性格と容姿の問題じゃないか。やっぱり私と分隊長がこれ以上考えても答えはでないんじゃないだろうか…。
暗雲が差し込んできた頃、ハンジ分隊長が「そうだ!」」と立ち上がった。
「女子からの観点だからわからないんだよ!ここは男子に直接聞いてみるべきだ!」
「確かに!そうですね!」
何故、男子は女子力を求めるのか。それは私たちが頭を悩ませても分からないこと。そもそも女子が思う女の子っぽいことと男子が思う女の子っぽいことは相違があるかもしれないじゃないか。
「そうと決まったら早速聞き込みだ!」
そう意気込みながら駆け出すハンジの後を、ペトラは慌てて追った。
**
***
「ねぇ、ユキの魅力ってなんだと思う?」
「…またお前か。性懲りも無く現れやがって」
訪れたのはリヴァイの執務室。まさかいきなりリヴァイ兵長に聞きに来ると思っていなかったペトラはどうしたらいいものかと扉から遠巻きに覗き込んでいた。
「そんなこと言わないでさ、今ユキの女子力についてペトラと一緒に調査してるんだ」
はぁ?とリヴァイは眉間に皺を寄せる。ペトラはなんで私の名前を出しちゃうの!?と今更無意味だと思いつつ扉の陰に隠れる。
「お前らがどうしてそんなくだらないことをやっているのかは興味もねぇが、観察対象を間違ってるんじゃねぇのか」
「そう?だってユキかわいいじゃない。単純にモテるし」
「あのどこでも気にせず居眠りする大食い酒飲み女に女子力なんて欠片もねぇよ」
さすがによく見てるねぇとハンジは言った。自分たちが丸一日中つけ回して漸く気づいたことをとっくに知っていた。
その後、あっという間に部屋を追い出されたハンジ分隊長は廊下を歩きながらぽつりと呟く。
「あんなに言っておいてリヴァイはユキのことを溺愛してるんだもんねぇ。一体なにがユキをそこまで魅力的にさせているんだろう」
廊下をすれ違った他の兵士に聞くとみんな口を揃えて明るい、話しやすい、自分たちのような末端兵にも分け隔てなく関わってくれる。
…という性格面の他にかっこいい、強い、憧れの存在、凛とした表情が魅力的と副兵士長として慕われていることもわかった。
女子力について聞いてみると「たまに魅せる表情が女を感じる」「色気がある」「雰囲気」など曖昧なことばかりで結局私たちが思うような女子力は一つもあがらなかった。
「料理ができるとかおしゃれとか…そういうのって後からついてくるものなんだろうね。自分が魅力を感じたその人についてもっと知りたいって思ってから知っていくことなのかも」
「結局、その人自身の魅力ってことなんですかね。不器用だったりちょっとガサツなところがあっても、その人なら可愛く見えるっていうのもあるみたいですし」
「なんにせよ、無理しないで自然体でいるのが一番ってことで。」
そうして私たちの女子力調査は幕を閉じ、なんの改善にも至らなかったのは言うまでもない。
**
***
「…オイ、ペトラ…あのよ…昨日のことなんだが」
翌日。同じように向かい合って朝食をとっていたオルオがペトラに向かって言いづらそうに口を開いた。
「…俺も少し、ほんの少しだが悪かったと…思ってるよ。だが、あれはお前のことを心配してやってやったことなんだからな」
「そんな心配いらないわよ。私は、このままの私を気に入ってくれる人がいればそれでいいの」
「…は?」
ペトラは空になった食器を持ち立ち上がる。立ち去っていくペトラは振り返ることもしなかった。
「オ、オイ…ペトラ!?どういう意味だそれ!?」
「…オルオ、お前振られたな」
「はぁ!?」
「ペトラにもついに彼氏ができたのかもしれねぇな」
「はぁぁ!?」
慌てふためくオルオを、
ペトラは知る由もない。
end
*おまけ*
ーー…がちゃんっ!
『どうぞ』
「…」
乱暴に置かれた紅茶に戸惑うリヴァイ。
実はユキが扉の前で偶然ハンジとリヴァイの会話を聞いていたことをリヴァイは知らなかった。
…どこでも気にせず居眠りする大食い酒飲み女で悪かったですね。
ユキの機嫌は暫く治らず、リヴァイは何か機嫌を損ねるようなことをしたかと暫く悩んだのだった。
*おまけ2*
扉を開けると案の定ハンジは部屋にいなかった。
今日までの書類をほったらかしてどこ行きやがった…と苛立つユキの足元に一枚の書類が落とされている。
拾い上げて見てみれば冒頭に「ユキの女子力」と書いてあり、色々と殴り書きされた結果、矢印が引かれ「ユキに女子力は無し」と書かれていた。
当然、ハンジはその後ユキに殴られたのだった。
END