番外編
□木漏れ日
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「…クソッ、どこ行きやがった」
午前の訓練終了後、ユキの姿が忽然と消えた。別に珍しいことでもないが、この後も午後の訓練が控えている。
あんな適当そうに見えて意外としっかしりしているユキのことだから心配することはないが、自然とその姿を探してしまう。
いつもならベンチで寝転がっているのだが、今日はいなかった。前は屋根の上に登っていて「危ねぇ」と怒ったものだが、そこにもいない。
そうして兵舎内をうろうろとしていると、…いた。漸く見つけた。
ユキは裏庭の離れにある木陰に寝ころんでいた。遠くからでもその長い黒髪はとても目立ち、すぐにユキだと分かった。
「ベンチの次は屋根の上、そして次はここか」
『だって気持ちいいんだよ』
瞳をゆっくりと開けながらユキは言った。その白い肌にチラチラと木漏れ日が映りこむ光景は幻想的でもある。
「そろそろ午後の訓練が始まるぞ、分かってるのか」
『わかってる。でもあと少し時間あるでしょ?それまではゆっくりしていたい』
「ギリギリまでこうしているつもりかよ」
『うん』
ははっと笑うユキに呆れて言葉もでなかった。隣に腰を下ろせば、ユキはうとうとと閉じそうになる瞳を手の甲で擦ってから口を開く。
『リヴァイも寝転んでみなよ』
「…はぁ?」
『そしたらこの気持ちよさがわかるから、ね?1回だけ騙されたと思って』
しょうがねぇなと寝転がってみると、目の前には広大な青空が広がり、木の葉が風にのって揺れていた。視線が低くなったというそれだけなのに、新鮮な気持ちに心が魅了される。
鼻孔を擽る草木の香りも随分と久しぶりだった。いつもはこうして真上を見上げることなんてないからか、どこか別の世界に来たのかと思えるほど気持ちがいい。
こんな風に外で寝転がったのなんていつぶりだろうか。確かにこれはユキが好き好んで外で寝転がり、空を見上げているのにも頷ける。まるで時間を忘れてしまうほど、平和に満ちたのんびりとした時間に、心の底から安堵する。
『どう?気持ちいいでしょ』
「あぁ、悪くないな」
そう答えたとき、ユキがこっちを見た気がして顔を向ければ、予想通りユキは俺のほうを向いていた。いつもより近い距離に心が跳ねた瞬間、ユキは『でしょ』と言って笑った。
子どものように無邪気に笑うその笑顔に、思わずこっちまで口元が緩む。
こういう時間も、
…たまには悪くない。
木漏れ日。
(リヴァイ、背中に草ついてる)
バシッ、バシッ!!
(…オイ、お前俺に恨みでもあるのか)
(リヴァイを叩ける機会なんて滅多にないと思って)
(……てめぇ)
end.