黒猫
□その名も一日メイド長!?
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『っんー……!』
布団から顔を出し、背中をぐっと伸ばす。
昨日は久しぶりに早く寝ることができたから、今朝は目覚めもなかなかのものだ。
目をこすりあくびを一つ。
『……今日の任務は、と』
携帯にて予定を確認する。
今日はBランク一つか…… 余裕だな。
時間余ってるし、ボクの武器の手入れとかにも時間を割けそうだ!
替えのジャージに着替えてとりあえず食堂に向かう。
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『……おかしいな、』
いつもなら廊下を歩いてたらメイドの一人にでも出会うのに、今は人っ子一人見当たらない。
アジト全体がやけに静かだし……… 何かあったのかな。
まぁ、みんなに会えばわかるよね。
いつも通りに食堂の扉を開ける。
すると、そこには幹部のみんながそれぞれに朝食をとっていた。
おぉ、みんな揃ってるよ珍しい。
『おはよー』
「……あら、おはようのあちゃん」
「…ししっ、遅かったじゃん」
「さっさと席につけカス」
………え、何この不自然ぐあいは。
ありえねー。
違和感尋常じゃないんだけど。
とりあえず言われたままに促された席に座ると、みんながボクを凝視してくる。
なんだよ、じろじろ見んなよー。
ちょっと照れるじゃないか。
「………のあちゃん」
『……なに?』
突然リア姉が重たそうにその口を開いた。
一体今日はなんなんだろう、朝からこの重々しい雰囲気……
そしてリア姉が発した次の言葉に、ボクは思わず手にとったフォークを落としそうになった。
「…のあちゃん、貴女は今日と明日メイドよ」
『……へ?』
「メイドたちの休暇が重なっちまってな、二日間誰もいなくなるんだとよぉ」
『……は、はぁ?』
「それで、代わりにのあがメイドさんをやることになったんですー」
『…………え、』
いやいやいやえぇぇぇええ!!?
なにそれ聞いてないよそんなのーっ!
うん、ベルが若干ニヤニヤしながらメイド服を突き付けてくる所を見ると、やっぱり楽しんでるなこのやろう。
大体幹部なんてたった7人でしょ、一日や二日メイドがいなくたって何とかなるんじゃないの!?
「いやねぇのあちゃん、メイドたちも意外といろいろ頑張ってるのよ?」
「掃除全般は全部アイツらがやってるからなぁ……」
「二日間掃除しないとか嫌です不潔ですー」
『え、そこはみんなで手分けとかないの?』
彼らいわくボクの任務は幹部で割り振りするから、ボクはメイドに専念してほしいとのこと。
…………いや、おかしいだろ。
仕事配分絶対不公平だろ。
ボクだってメイドやるよりは任務やってたほうが断然ましだもん!
『武器職人のほうは!』
「休め」
『そんな無茶な、大事な大事なお得意さんだっているんだよ!?』
「そのくらいのあにかかればちょちょいのちょいでしょー?」
「まぁまぁとにかく着てみなさいよ!のあちゃんのためにモデルチェンジしたのよぉ♪」
『なんて余計な事を……』
言われて渡されたメイド服を見ると、確かに前のものとは違う胸元が大胆に開かれているタイプ。
黒い生地は美しいデザインにカットされ、膝上15センチくらいのスカートはパニエに持ち上げられふわりと贅沢に広がる。
そこに丁寧にあしらわれた上品な白いレースがなんというか……ゴシックロリータ風の雰囲気を醸し出す。
……ちょっと待って。
これ、ホントにメイド服!?
キャバクラとかじゃないんだから!
「んでこれにあのチョーカーつけろよな」
『ベル、それは完全にキミの趣味だよね』
「本当は赤いリボンを首に結ぶのよー♪」
「ネコミミカチューシャつけましょーよー」
いやいや、何のコスプレだよまったく。
だいたいスカート異常に短いよ、こんなんじゃ動き回るうちに中身が見えちゃうじゃないか。
とにかくボクはこんなの着たくない!
むんずと掴み、リア姉の厚い胸板に強く押し返す。
どうせ自分が着たくて作ったんでしょこれ絶対そうだ!
「いいからまず着てみてくださいー!」
『やだ』
「貴様にしかできぬのだぞ!」
『絶対に嫌だ』
「着やがれカス」
『…………はい』
コオォォは反則だよボス!
ものを言わせぬ真っ赤な瞳。
首を縦に振る以外の選択肢は、そのまま人生のバッドエンドに直結するだろう。
権力振りかざしやがってからに、これパワハラだぞー!
……仕方なく、仕方なくだからね!
忌まわしいメイド服を持ちながら一度部屋を後にする。