黒猫

□白、黒。
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「のあ、この間の奴覚えてるかぁ?殺せなかった風使いのジジィ」

『……えーと、あれか。ボクが小さくなったときの厳重警備の』

「それですそれー」

「フン、任務失敗は許さねぇ。全員で狩りに行くぞ」

「居場所は突き止めたのよねぇん!」

「マフィア総力が固まっているようだな」



メイド騒動も何処へやら。

常に忙しいヴァリアーはそんな日常の些細な茶飯事など気にならないほどに次から次へと事案が舞い込んでくるのだ。


幹部全員呼び出されての会議。

全員雁首揃えなきゃならないほどの大捕物なのかと思ったら、なんとこの間の白狐のじいさんのことだった。

みなさん覚えていらっしゃるでしょうかあのsmaller than、ボクが小さくなった時のこと。

一体誰に話してるのかなボクは。


本日の会議の議題はビアンコファミリーの一傘下である中小ファミリーの殲滅。

このファミリーは、前回取り逃がしたあいつが牛耳っているファミリーだそうで。

ボクに気をきかせてわざわざヴァリアーで見つけてきてくれたのだろうか。



本当なら、あの日殺しておかなければならなかったのに。


あの死に損ない白狐が告げ口したのかどうかは定かではないが、あれからのヴァリアーの案件にはしょっちゅう「ビアンコファミリー」の文字が入るようになった。

依頼とかじゃなく、仕事の邪魔になるから処分しないとならない系のお仕事。

どうやらボンゴレのほうにまでもたまに被害が及んでいるみたいで……、なんかもう本当に申し訳ない。


会議中に黙って下を向いているボクにみんな気付いてしまったのか……



「お゙ぉい、集中しろぉ」

『……いっ、だあ!』

「なーに余計な考え事してるのよぉ」

「会議を疎かにするな!ボスの前だぞ」

『わかってるってぇ……』



だからって分厚い資料の束で頭殴らなくてもいいじゃんか。

下手したら卒倒ものだぞ……


仕方なくふ、と顔をあげたら。

目の前にいたのは丁度、ベル。

ベルもボクを見ていたみたいで、目が合った。気がした。



「『………っ、』」



二人して同じタイミングで顔をそらす。

会議室に一瞬の沈黙が流れた後、また会議を進め始める。


あの事があってから、最近はいつもこうだ。


別に目を逸らす理由なんてない。

ただ、なんとなく気まずくて。

少しだけ熱くなった気がする頬を冷えた手で熱を緩和するように覆う。



「……ゔぉい、どうしたんだあの二人はぁ」

「私に聞かれたってわかんないわよ!二人とも聞いても何もない、の一点張りだもの」

「怪しいですね、なんなんでしょー……」

『……? みんな、そんな小さい声で話されても聞こえないんだけど』

「っ! そ、そうよねごめんなさい! それで、ここなんだけど……」



資料を指差し、侵入経路の確認中。

前のロックも中々強固なものだったし、今回の警備も手強い。

まぁ、前回同様ボクにかかれば大したことないってやつですね。


極秘入手した見取り図を見るといくつかのロックポイントのあとに道が二手に分かれていて、そこから先は情報がない。

まるで迷路みたい。



『じゃあこことこことここはボクが解除するから、そのあとは二手に?』

「そうだなぁ…、分かれるのが妥当かぁ」

「どうやって分けますー?ミーのあと一緒でいいですかー」

「あらやだフランちゃんたら積極的!」

「だってのあといたほうが確実で安全で幸せじゃないですかー」

『別に守る気はないからねフラン』

「……ちぇ、ミーが守るのによー。幻術で」

『はいはい』



新しい紙をまた一枚。

びっと適当に線を引き、右側に右、左側に左と雑に書く。

字汚ぇな、などとボスに呟かれ眉をしかめてボスの顔を見ると、フンと鼻を鳴らすのみ。

うるさいなぁ、頭の回転が早い人は字が汚いんだよ知らないの?

手が頭の中で考えてることについてきてないだけなんだからね。



『じゃあどーする?ボスは来れるんだっけ』

「……当然だカス」

「ヴァリアーなめられて黙ってられねぇんだよなぁ、ボスさんよぉ」

「るせぇっ」

「ぐッ! ……ゔお゙ぉぉい誰だ!会議中にまでボスにグラス渡したのはぁ」

「ボスが所望したのだから渡すに決まっておろう、貴様がグラスを投げられるのは自業自得ではないか!」

「………やるかぁ゙、レヴィ」

「望むところだ」

『ふむふむそうか、ボスもいるなら心強い』



スクアーロの大きく振られた剣の先を小さな動作で避け、右側の空白にボスとレヴィの名前を書く。

そしたら左にはスクアーロとリア姉かな、チーム分けで人間関係考慮しなきゃいけないなんて大変だ。

そしたら左チームは遠距離で戦える人が足りないからベル入れて、ベルとフランは一緒にしたら怖いからフランは右チーム。


よしこれでいいかな。

ボスレヴィフラン、スクアーロリア姉ベル。

うんうん、即席なのになかなか均整取れてるんじゃないか。



「それ、お前はどっちに入るんだぁ」

『……あー』

「人数を数えるときに自分だけ数え忘れるパターンねぇ……」

『どっちでもいいや。どっちいけばいい?』

「「「「こっち」」」」

『だからどっち』



みんながお互い自分の方を指差す。

仕方ない、ここはさっきからずっと愚痴こぼしてるフランの言い分を聞いてあげようじゃないか。

ボク、と右チームの枠に書き込む。

自分の名前を自分で書くのってなんかこう、恥ずかしいよね。

スクアーロにちゃんと名前で書けとつっこまれ、しぶしぶ二重線で訂正したのちのあと書き込む。

どうだこれで文句ないだろ。


ベルとは、別のチーム。

ちらりと顔色をうかがってみると、ベルはさも興味なさそうにナイフで遊んでいる。

そうだよね、##NAME2#が単純に気にしすぎなんだよね。

いつも通り、いつも通り。



「あれー?いいんですか、ベルセンパイ」

「あ? 何がだよ」

「のあと別のチームでも」

「別に。どーでもいいっつのチームなんて」

「………そうですかー」



ヴァリアー対ビアンコファミリー直接争いの実質皮切りとなるこの任務、何があろうと失敗は絶対に許されない。

そう、例え人間関係がもつれかけていようとなんだろうと。

その後も予定合流地点や非常時の暗号など、大体のことを取り決め会議は終わった。


内部構造が不明だろうと、ボスや幹部全員がいるとなれば成功率は90%を越えることができるみたいだ。

それはよかった。





 
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