黒猫
□小休止
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『痛い!! 痛い痛い痛い!!!』
「このくらい我慢しなさい、ヴァリアー幹部でしょ!」
『無理だってこんなの痛いエグいいいああああああ!!』
「たかがギプスはめるだけじゃないの……」
「はやく治してもらわねぇとこっちも困るんだぁ」
『晴の炎でちょっとずつ治してるもん……』
「骨のひびはちょっとやそっとじゃ治らないのよのあ! 大体最初から筋肉と体力をつけてればこんなに骨に負担にもならなかったのよ!!」
『はいはい聞きあきたって痛い! そこギプスはめたばっかのとこ! 痛いよ!!』
「はいおしまい、ちゃんと安静にしておくのよ!」
『はーい……』
「ベッドからもし降りたりなんてしたら筋トレさせるわよ」
『絶対降りない』
「よろしい」
ヴァリアーアジト、治療室のベッドにて。
響く悲鳴はヴァリアーには珍しく、子供の痛いよ声のようなもの。
子供じゃないよボクだよ、こんにちは。
前回の任務で右足を痛めた……検査した結果、右足のなんとかっていう骨にひびが入っていたんだそうな。
まぁ、骨の名前なんて覚える必要ないよね。
んで大事をとってギプスをはめるだけはめて、さっさと治してしまおうという魂胆らしい。
普通はギプスはめるのなんて痛くもなんともないはずなのに、リア姉が乱暴にしたせいで何故か激痛を伴ったのだ。
「一応働けるから働いてはもらうけど、無茶は絶対しちゃダメよ? ベルちゃんとかフランちゃんとかその辺の幹部使いなさい」
『うん。 武器運ぶのやってもらう』
「何かあったらすぐ電話鳴らすのよ? 精密検査では問題なくても何か起きることなんてよくあるんだから」
『心配性だなあ……』
「当然じゃないの!」
「ルッスーリア、その辺にして任務行くぞぉ」
「はいはい。 じゃこれ鎮痛剤と消毒液、小さな傷もちゃんと消毒しなさいよ!」
『はーい』
やっと部屋を出ていった。
口うるさいお母さんみたいだったよリア姉……
真っ白なシーツに天井、カーテン。
清潔感をとことんアピールする治療室。
まがりなりにも幹部だし武器職人だししばらくここがボクの職場になるので、二人部屋を貰った。
久々に武器職人一本の生活。
白いシーツの上に、大量生産型の銃の部品の部品の部品が並んでいる。
これを今から組み立て組み立て、部品の部品にする。
そしてそれをさらに他の部品と組み立てて部品にして銃にする。
………面倒くさい。
一応黒猫ブランドの銃だけど、ボクは量産品はあまり好きじゃないんだ。
『…………はぁ』
ぼうっとしてても金は入っては来ないので、とりあえず手を動かす。
ぱちん、ぱちん。
ずれることがないように、欠けることがないように。
退屈だ、命のやり取りをしていたヴァリアー幹部の日々に比べたら、退屈だ。
「そんなのあを構うのがミーの役目ですー」
『っおぅ!?』
「任務に出ないからって平和ボケしないでくださいねー」
まさかフランに簡単に背後を取られるとは!
いつの間にか真っ白な空間に佇んでいた、黒と透き通った青緑。
……あぁ、安心するなあ。
ほ、と息をつき後ろにやっていた視線を前に戻すと、ボクの視界に入るようにフランがベッドの縁に腰を下ろした。
「てことで、お話しましょー」
『任務はいいの?』
「今日は非番なのでー」
『そっか』
「調子はどうです?」
『まぁまぁかな、治るのにそんなに時間はかからないって言ってたし』
「それはよかったですー。 お仕事中ですか?」
『ん、簡単な作業だけど』
他愛もない会話を次々に展開していく。
コミュ障のボクには間違いなく無理な芸当だ……。
相づちを打ちつつ聞かれたことに答えつつのんびり会話を交わすだけ。
なのに、みるみるうちにリラックスしていくのが分かる。
このいつも通りが、ひどく安心するんだ。