黒猫

□小休止
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「ミーも手伝いますー?」

『だめ。 素人に触らせたら黒猫のブランド名が泣く』

「わー、職人ですー」

『当然。 みんな分かってないけどボク実はすごい武器職人なんだからね』

「分かってますよー、根性座った小さくて愛らしい女の子が黒猫の正体だって」

『足が動けば蹴り飛ばしたのになあ』

「蹴りたければ早く治してくださいよー」

『治したいなあ、早くみんなと任務行けるようになりたいよ』

「……のあが、デレ期ですー」

『あ゙?』



いっちょまえに目を見開きやがって。

実際不便なんだから早く治したいに決まってるじゃないか。


会話が途切れたためフランは辺りを見回す。

広げた部品、机の上には軽い飲み物食べ物、リア姉が置いていった消毒液と薬。



「……消毒、してあげましょうか」

『え、』

「背中とか自分じゃできないでしょー?」

『やだ痛そう』

「消毒なんて痛いものです」

『やだ無理』



勝手に消毒液とピンセット、脱脂綿を手に取るフラン。

やめろと言ってもこれは聞きそうにない、何となく楽しそうな顔をしている。

確かに背中にもちょっとした傷はあったかもしれないし、右足を動かさない方がいいからあまり動けないけど……



「とりあえず背中見せてくださーい」

『………わかった』

「おぉ、案外素直ですねー」



どうせ自分でやっても痛いものは痛いんだ、せっかくだしやってもらおう。

ジャージをめくりあげ軽く背中を向ける。

カチカチ、ピンセットと消毒液の瓶がぶつかる高い音が聞こえる

多分、脱脂綿に消毒液を染み込ませているんだろう。

一体どんな顔してボクの傷の世話なんてしているんだろう、やっぱりいつもの無表情かな。

瓶とピンセットがぶつかる音が止んだ。

と即座に背中に走る冷たい痛み。

反射的に背中が弓なりに反る。



『んぎゃ、!』

「なんて声出してるんですかー」

『声くらいかけろ馬鹿!』

「わざとです」

『殺すよ』

「嘘ですー、うっかりしてました」

『頼むよフラン』

「はいはい、次いきますよー」



べちゃ、ぐりぐり。

手心なんてまったく知らないような乱暴な手つき。

痛い、染みるし傷口はえぐれるし痛いよフラン!

絶対楽しんでる、絶対楽しんでるよねキミ!



『っい、た』

「えーこの程度で悲鳴あげないでください、ていうか逃げないでくださいよ」

『だって痛い、ぃう』

「優しくしてるつもりなんですけどー」

『っ! それ、痛いよフランっ!』

「んー……」

「おいなにのあいじめてんだよカエル」

「ゲロッ」

『いっ……たぁい!!』



ばこん、カエル帽子がへこむ音と背中に刺さるピンセット。

実際に刺さったわけじゃないけど傷口への刺激はそのくらいのものである。

ベルのナイフがフランみたいに背中に刺さったら、こんな感じの痛みなんだろうか。


ところで今聞こえた声、この楽しそうな笑い声はまず間違いなく………





 
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