黒猫

□黒猫の朝
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「ん… 朝、ですかー?」

『おぉフラン、起きてくれた』



左側がむくりと起き上がる。

よし、その勢いでボクも抜けようじゃないか…

ぐ、突如体に拘束感。



『うゃぁあ!?』

「んん… やらけ…」

「…ッチ、堕王子のくせにー…」



あろうことか、ベルはボクの胸に顔をうずめてきた。

しかも寝ぼけて。


うーん、怒るに怒れないじゃないか!



「…ししっ」

『…何で笑ってんのさ』



しかもまだコレで寝ているというね。

王子様の扱いは面倒くさいな、全く。


ぎゅうっと体を抱きしめて、頭をすり寄せてくる。

ふわふわなのにさらさらという矛盾した金髪が、少しくすぐったい。



『何この人、ちょっと可愛いんですけど』



思わず頭を撫でてしまう。

まるで、よくなついている猫みたいで。

あらまー、髪まで猫っ毛…?



「…いい加減にしろよ自称王子」

『にゃは、寝ちゃってるんでしょ?』

「そんな演技ミーには通じませんよー?悪夢見たくなかったら起きろ」



フラン、何もそんな殺気立たせないでも…

演技って何のことさ?


ほら、こんなに甘えてきて可愛いじゃないか!



「チッ… んっとうぜーなクソガエル」

「ミーの布団でそんなことしないでくださいよー」



おぉっとこの人完全に起きてたー!


ぱっと顔を起こした、ずいぶんと上機嫌な王子様。

お得意スマイルを顔に貼り付けて、ボクをまた抱きしめる。



「おはよーのあ、お前ホント抱き心地良すぎ。離れらんねー」

「へんな勘違いが起こりそうなセリフ、やめてもらえますー?」

『べ、ベル… 息できない』



強い力で自分の胸に押さえつけるもんだから、当のボクは窒息寸前。

目の前は黒と赤のボーダー一色。


…力加減ってものを知ろうか、キミ。



『…ね、離して?』

「は?…ヤダ。無理 寒い」

『いや、寒いとか意味わかんない』



まるで駄々をこねている子供のような口調。

あぁもう可愛いな今なら王子ってのも分かるよ!



「…子供って、体温高いですよねー」

「ししっ、ホント。王子あちー」

『…ケンカ売ってんのかなキミたち。そしてベルはそう思ってんのなら離れようか』

「「そんなこと(ねぇし)(ないですー)」」



何でたまにイラッとくるようなこというのかなキミたちは。

黙ってたらカッコいいのに……


顔を無理やりに上げると、前髪ごしにベルと目が合う。多分だけど。

てか顔、すっごく近いんだけど。

前髪ちょっと当たってるもん。ボクの鼻に。



「…なぁ、のあ」

『?』



少し下げられた声のトーン。

どうした、急に真面目そうな顔になって。


いつもの白い歯が、今は見えない。



「あのさ…」

『何?ベル』



刹那、交差する視線。



「……キスしてい「死ねーセクハラ王子ー」



気が抜けるフランの声とともに勢いよく飛んできたのは、真っ黒カエル帽子。

それは、見事としか言いようがないくらいの精度でベルの後頭部にヒットする。


その衝撃は、ベルと密着していたボクにも伝わる。


……あれ?今、なんか………



「邪魔すんなし、せっかくいい感じだったのに」

「だからー、ミーのベットでやられても困りますってー」

「じゃあオレの部屋連れ込めばいいんだろ?」

「いやいやそんなことさせませんからー」



フランに向けて、これでもかというほどのナイフを浴びせに行くベル。

その背中を、ベットの中からしばらく眺めた後、まだ三人分の温もりが残るベットから這い出る。



……今、ほっぺにやわらかい感触が、あったような…




違和感がいまだ残る頬をそっと押さえながら、二人のケンカを眺めるのであった。



『朝から、元気だねー…』




(気のせいかもしれない)

(でも、気のせいじゃないかもしれない)

((この微かに残る、(頬)(唇)の感触))






→あとがき
   
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