黒猫

□黒猫の昔話
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「風属性はねー、特別なんだよー?」

『はぁ?何言ってんだくそ猫』

「ひどいよのあー…」





あれは、ボクが武器職人を始めたころのことで。

武器作りのスランプに陥って、ちょっと落ち込んでいた頃。ちなみにだいぶ昔。


気分転換になるかと、今は亡き母が遺した匣とリングを使用してみたところ、風が出てきたのだ。




初めて使った匣兵器。

出てきた風は、とても可愛く、甘えるように擦り寄ってきたのだ。

甘えん坊なのはもうこの頃から。


ボクも動物は好きだから、こっそり癒されていたのは言わないでおこう。調子乗るから。










風はなぜかいつも嬉しそうにしている。

本人(?)いわく、「僕が今こうして外に出れているのは、のあがいたから」だそうで。





風属性を持つ人は、世界に一人しかいない。存在できない。

二人存在した時は、必ず片方の命、または力がなくなる。




つまり、ボクが風の匣を手にしてなかったら、風はこうして出てこれることがないのだ。


風属性の匣もリングも、探すと世界中にたくさん出てくるらしい。

ボクと風が出会えたことは、ものすごい確率の奇跡。




だから風は嬉しいんだとか。

ボクのことが、大好きなんだとか。






それを、出してあげた初日に何度もリピートで聞かされた記憶がある。


「だから僕は、のあから絶対離れないからねー?」


猫のくせに笑った表情ができるのだから、驚きだ。





母を失い、家を出て一人暮らしを始めたボクに、そんな言葉をくれた風。


ボクの大事な、パートナー。





そんな事絶対に言わないけどね、調子乗るから。












「ね、ね、のあ!なんか用があって呼んだんでしょ?なぁになぁにー?」

『えぇい、うっとおしい。黙ってなさいまったく』

「冷たいなーのあー。僕にだって心があるんだよー?」





知ってるよ、そんなの。

バカみたいにお人よしで、バカみたいにボク一筋にくっついて。


バカみたいに、ボクだけを、純粋に愛して。



唯一そうしてくれた存在がいなくなったとき、それがどんなにありがたかったか。嬉しかったか。






そんなこと絶対に言ってやれないから、あのときボクは、ただ風を抱きしめて、声を殺して泣いたんだ。


母さんが死んでから、初めて、泣いたんだ。




きっと母さんも、風が大切なパートナーだったんだな。


そして、それをボクに引き継がせてくれた。

自らの力とともに。 命と、ともに。





母さんは周りに風属性だと知られていた。

そして、色々なマフィアに狙われたりしていた。


唯一そんなことしないと誓った親父も、例外ではなくて。

どっかのマフィアの研究員で、常にその「力」を研究し続けていた。



母さんはそれに耐え切れなくなって、ボクと一緒に家を出た。


親父と兄貴は、そのときそれを笑顔で見送った。






後日、母さんは殺されたんだ。

強すぎる力を持ったせいで。


ボクに、匣とリングと、一通の手紙を遺して。







だから、ボクはこの力を隠し通す。

母さんの意思でも、あるから。





……そう、決めたのに―――



















『何で気安く話すかなこの猫は』

「痛い痛いのあ!首根っこ掴まないでよー!」

『黙れ猫。口縫い付けるぞ』






あろうことか風は、風属性についてをあらいざらいボスに吐いていた。

ボクが昔のことを思い出している間に。


風属性のことと、ボクがその力を持って今どういう状況にあるかを、全部。


…そう、ボクも母さんと同じように。




あるマフィアに、狙われていることも。








『こんっのバカ猫、匣に閉じ込めんぞ』

「やーだー!」





ボクはこのことを、本当に信頼が置ける人物にしか話さないと決めていたのに!


大丈夫だと思っていた兄貴が、ボクと母さんの居場所を親父にチクっていた、という経験があるから。

 






『なーのーにー、こーのーねーこーはー!』

「うわぁあんのあ、顔が怖いよー!」






ギリギリギリ。

これでもかというくらいに、首を絞める。



今の話を聞いたボス、どう思ったかな……?

やっぱり、ボクの「力」を、利用したいと思うのかな…?




ちらりと横目に顔色をうかがう。



いままでにこの話を聞いた奴らは、話を聞いたとたんに手のひらを裏返して媚びてきた。

無理やりにでも、この力を捕まえようとする者もいた。


そんな奴らは、みんなボクが、この手で壊してきた。




やっぱり、また壊さないといけないの――?











この数日、久々に「楽しい」と感じた感覚は、嘘じゃない。


胸が温かくなるこの久しぶりの感覚も、全部真実。




母さんと風以来なの。

「一緒に居たい」と、感じた人たちは。






お願い。


どうか、ボクを「利用できるもの」じゃなくて。



ひとりの「仲間」として、見て欲しい。








そんな祈りをこめた視線をどう受け取ったのか、ボスは。








「…フン。上等じゃねえか。交換条件だ」

『……?』



「お前はオレらのために働け。できることは精一杯してみろ。足掻いてみろ。それが出来たら――――――」











――――――オレたちが全力で、「仲間」として、守ってやる。












そんな温かい言葉を貰えて。

今までの人たちとは、違うんだと分かって。













ボクの頬には、何年ぶりになるか分からない温かいものが、零れた。

















(ボクの力じゃなく、ボク自身を必要としてくれる)

(ボクはきっと、無意識に。)


(そんな人を、探し求めていたんだな、と思う。)









   


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