黒猫

□強風警報発令 後編
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六匹のうちの一匹の白猫は、自分の家の裏にある森に遊びに行っていました。


そして、日が暮れかけて家に帰ってきたとき。





その猫は、自分の目を疑いました。




自分の家には、自分の兄弟である五匹の白猫がいて、いつもなら自分を出迎えてくれます。

なのに、今その赤い目に映るのは。






無残に毛皮を剥がれた、愛しい兄弟。



……いや、兄弟「だったもの」でした。









「………どうして?」



その目の前の惨劇に、残された白猫は一瞬気を失いかけました。

しかし、それは許されません。






「シロダ、シロ」


「マダ、ノコッテル」







そこには、兄弟たちの毛皮を手に持ち、兄弟たちの血に濡れた。




黒狐たちがいたのです。


彼らが手にしていたのは、鋭く光る刃物。




白猫は本能的に逃げました。






「………マテ、マテ」


「シロヲヨコセ………」







外は暗闇。


白猫の毛皮は、とてもよく目立ってしまいます。





後ろには、闇にまぎれた沢山の黒狐。


白猫は必死に逃げ続け、ある泉にたどり着きました。



その泉は、村人から「悪魔の泉」と呼ばれ怖れられていました。




しかし、今の白猫は違います。






――私が、白い毛なんかに生まれなければ


――私が、赤い目なんかを持ってなければ





――私が、「アルビノ」でなければ。










村の言い伝えでは、悪魔は自分の大切な物と交換に、なんでも与えてくれるらしい。



「それなら、アルビノの血を捧げよう」





自分が今欲しいのは、普通?平凡?



………いや、自分を守るための「力」、


愛しい兄弟を奪った彼らに復讐する「力」。






――悪魔さん悪魔さん、願い事を聞いてください。








こうして白猫は、悪魔に「アルビノ」を捧げて。



一匹の、黒猫になりました。








だから、黒猫は不幸の象徴なの。






ご機嫌そうな母さんの声。

こんなグロい話子供にしないでよ。とか、あの頃は思った。



でも、今ははっきり分かる。




このお伽話の「黒猫」は、間違いなくボクのことなんだって。









そうじゃなければ、この高ぶる感情はどう説明がつく?


敵を前にして、「狩る」ことが出来るのに対して―――……






『楽しい、って思う、この「血」。』



胸騒ぎなんかじゃないの。

カラダ全体がドクドク脈打って、本能的に血を求めてしまう。


もちろん、それは敵の血。







『にゃは………。 ホント、』




笑える。







ボクはもう既に、「黒猫」の運命を背負っているんじゃないか。


敵を狩ることに、快感を覚えるんだ。

「復讐だ」って、身体が騒ぐんだ。





死ぬことよりも何よりも、運命なんてものに振り回されるのを嫌う、母さんだって。






このお伽話を語った時点で。


ボクだって、何度も何度も聞かされた時点で。













―――立派な、「黒猫」の延長線上に居る。







『…ははっ。ホントに、運命って残酷』


不幸の象徴である黒猫は、どれだけ不幸になるのか。







気がつけば、目の前には人だったものがごろごろ。

無意識のうちに狩り終えてしまった。







――――不幸の象徴、黒猫は。



――――幸せになれるの?









嫌な風が吹いているのを、感じる。


第六感だって、警報を鳴らし続けている。




なによりも、この力を持った身体が、血が。






その転がった死体の中に、







「白い毛皮を被った、狐が混じっている」







なんて、言っている。














(狐たちは奪った毛皮をどうしたと思う)

(ボクはこう思うんだ)

(剥いだ毛皮を、自分で被って)

(「白狐」だなんて名乗るの)






→あとがき
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