innocent starter

□Act.3-2
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歩行者用の信号は赤だった。
それに従い、止まった足は2つ。共にジャージに身を包んだ小学校高学年の男女だ。手に持つスポーツバックがお揃いなのは、彼らが翠屋JFCの選手とマネージャーという関係だからだろう。祝勝会に参加していた2人は、共に帰路についていた。

2人の間に会話はない。沈黙がその場を支配する。時折、女の子の方がチラチラと男の子の表情を窺う。気のせいか、その頬はほんのりと朱に染まっていた。しかし、対する男の子はというと、気付く様子もなく、ただその視線を歩行者用の信号に向けていた。

ため息が出そうになる。少しだけ、ほんの少しだけ心が沈んだ気がした女の子は、どうして男の子はこうもムードを無下にできるのだろうかと小さく首を傾げた。確かにこんな真昼間の街中でムードも何もないかもしれないが、それでも2人きりの状況。少し位、察してくれても良さそうなものだ。

2人の前を乗用車が通り過ぎる。

僅かだが、気付かないうちにしかめられていた顔を元に戻し、先に声を出したのは女の子だった。今日もすごかったね、と。

そんなことないよ。やんわりと否定した男の子。その言葉が自分個人に向けての言葉と理解したうえで謙遜したのだ。すごいのは自分じゃない、チームだ、と。

でも、すごかった。言われても、女の子は尚も押す。その言葉に諦めたのか照れたのか、男の子は押し黙った。頬が朱い。どうやら後者のようだ。男の子の手がポケットへとのび、何かを握る。照れを隠すような、誤魔化すようなその仕種の後、おもむろにそれを差し出した。

碧の宝石。子供の手のひらに易々と収まってしまうほどの大きさしかないそれは、菱の実のような形状。まるで、碧眼の瞳を思わせる。

女の子は察した。それが自分に向けて差し出された意味を。自然と顔が綻んだ。女の子の手がゆっくりとのびる。

「――待ってッ!!」

突如響いた第三者の声。2人は声の聞こえた方向へと視線を向ける。少年だ。2人が確認したのは、息を切らせながら駆けよってくる年下の少年。彼の首から下げている小さな赤い球体が、まるで自己主張しているかのように小さく跳ねた。
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