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□ギガうまっ!
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ミッドチルダ首都、クラナガン。そこの一画にある小さな喫茶店。

「へへっ」

そこには嬉しそうに笑う赤毛三つ編み幼女がいた。

「なぁ」

オシャレなテーブルを挟み、彼女の前に腰を落ち着けていた男がおもむろに声をかけた。

「もう頼んじまったからな。今更、キャンセルとか無しだぜ、ヴェル」

してやったりな表情を浮かべた幼女――――鉄槌の騎士ヴィータ。

ヴェルベットは、まだかまだかとウキウキしている様子のヴィータを見て思う――――なんでこんな事になったんだっけ?


** ** ** **

ギガうまっ!

** ** ** **


「ギガうまなんだよっ!」


お昼時、顔を合わせるなりの一言にヴェルベットは目をパチクリさせた。いきなりそんな事言われてもなと眉を寄せ、とりあえず聞き返した。

「ギガうまなんだってばっ!」

「だから、何が?」

「ギガうまだって言ってんだろー!」

大した情報は得られ無かった。と言うか、通じろ、言葉。

「はやてー、ヘルプミー」

まるで、タチの悪い酔っ払いに絡まれた気分になったヴェルベットは、丁度近くでなのは達と昼食をとっていたはやてに助けを求めた。介抱してやってくれと。

こっちおいでーとヴィータを呼び付けたはやては、大きな身振り手振りで何かを一生懸命説明している幼女の話を頷きながら聞いていた。

――あのね、あのね。――へぇ、そっかぁ。

なんか、保育園みたいだった。

とりあえず助かったと解釈したヴェルベットは食堂を後にしようと踵を返し、歩き出したのだが、突然足が止まった。首を回し、後ろを確認したヴェルベット。その小さな手でがっしりと制服の裾を掴んでいるヴィータを捉える。

「あたし、このあと非番なんだよ」

別に聞いてもないのにヴィータは喋る。ペラペラと饒舌に。

「このあとはお前も非番だよな? はやてに聞いた」

相槌を打つ暇がない程に一方的に喋る。

「お前、予定は特に無いらしいじゃん。はやてに聞いた」

ほっとけと内心で毒づいたヴェルベットは数秒遅れて気付く。

――なんではやては、俺に予定が無いことを知っているんだ?

「ヴェルは友達少ないから、遊んでくれる人がいないんだよって。はやてに聞いた。だから遊んでやれって。はやてが言ってた」

「余計なお世話だよっ!」

キレた。お前は俺のなんなんだと。しかし、鉄槌の赤幼女は負けない。と言うか、話を聞かない。

「んで、外出許可貰ったから。はやてに」

俺のもですね。わかります。

休む暇など与えるものかっ! とばかりにヴィータはヴェルベットを引っ張って行く。ちょっと待てと制止しようとしても彼女は止まらない。ヴェルベットの目にちらりとはやての姿が映った。彼女は面白そうに顔を綻ばせて、手を振っていた。彼は思った。もういいや、好きにしろ。


** ** **


「思い出した……」

そうだ、そんな流れだったとヴェルベットは頭を抱えた。あの後、抵抗しても無駄だろうと踏んだ結果がこれだった。

「前に来た時は時間無かったからなー」

しみじみと頷くヴィータの言葉が耳に届き、引っ掛かった。

「前に来たことあるのか?」

「ん、まぁな。はやてと来たんだ。本局行った帰りに」

寄り道かよ。短く毒づいたヴェルベットはメニューを手に取った。自分も何かを頼むかと。ヴィータは最初から何を頼むか決まっていたらしく、来店してすぐに自分の分だけ注文してしまったのだ。もちろん、ヴェルベットが決める前に。

「なんでも好きなもん頼めよ。どうせ、お前の奢りだし」

「奢らない。自分の分は自分で出せ、ちびっ子」

ガタンと椅子が倒れ、ヴィータがテーブルに足を乗せる。そのままヴェルベットの胸倉を掴み、ぐいっと自分の顔に近づけ凄んだ。

「あたしはロリ要員じゃねー」

「つっこむ所が違う。それからお前は間違いなくロリ要員だ」

その後もあーだこーだと言い合いが続いたが、ウェイトレスの一喝により一時休戦。ヴェルベットの頬が赤く腫れているのはご愛敬だ。

「まったく、人がせっかく付き合ってやってるのによー」

「付き合わされてるの俺だよねっ!?」

涙目で反論するヴェルベットに対し、あぁん? と眉を寄せ、がんつけるヴィータ。何言ってんだテメー。この鉄槌の騎士ヴィータ様が貴重な時間割いて、こんな小汚い店に付き合ってやってんだぞ。黙って頷いてれば良いんだよ。もう一発欲しいのか、と。ちらつかせた伯爵はもはや凶器。デバイスではなく凶器。凶器ったら凶器なんだ。

ヴェルベットはガクブルな膝を懸命に隠し、やれるもんならやってみろよと強がった。

上等だ。口にはしなくとも、ヴィータの目がそう物語る。やっちまった。

見事に死亡フラグをおっ立てたヴェルベット。ガシャコンとカートリッジをロードした音に思わず腰を浮かせる。

「――落ち着け、ヴィータ」

「うっせー。あたしはお前の屍を超えて行く」

――行かなくていい。いや、逝くのは俺か。

主に機動六課に来てから鍛え上げられたヴェルベットの直感がそう告げた。

「轟天爆砕ッ!」

「フルドライブゥッ!?」

店の広さなどの諸々の事情を無視したヴィータの攻撃。ヴェルベットは思う――――せめてラケーテン。

「ぶっ潰れろぉー!!」

「アッー!?」




end

(書いてて着地場所がわからなくなってしまった……)
 

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