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□おじゃマ?
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※ネタです。
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おじゃマ?
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機動六課にあるヴェルベットの自室。部隊長の八神はやてによって割り振られたその部屋は1人では些か広く、2人では些か狭いという微妙な大きさだった。
「…………」
「えっと……」
そんな部屋にいるのは主であるヴェルベットと、機動六課ライトニング分隊、隊長フェイト・T・ハラオウンの2名。
シンプルなテーブルを挟み、ソファーに腰をかけるヴェルベットは無言でフェイトを見る、もとい、睨む。それに対しフェイトは何を思ったのか頬を赤らめ、えへへと首を傾げながら照れてみたり、俯きながらチラチラ表情を盗み見たり。それはもう、いい勘違いっぷりだった。
「はぁ……」
もう結構な時間この不毛なやり取りが行われていたのだが、いい加減面倒臭くなってきたヴェルベット。やれやれと肩をすくめ、フェイトに聞いた。何しに来たんだと。
「み、見てほしいものがあって」
ぱぁっと顔を輝かせてフェイトは言った。
――嫌な予感がする。
根拠はなかったが、ヴェルベットの中の何かがそう告げる。多分、ロクでもないことが起こる。そう思わずにはいられなかった。
「……ヴェル、機嫌悪い? お邪魔だったかな?」
答えを出しあぐねていたヴェルベットにフェイトが遠慮がちに問いかける。ハの字に垂れた眉が印象的なのだが、ヴェルベットは知ったことかと淡々と言葉を繰り出した。彼には、あまり効果はなかったらしい。
「――全力全開(『なのは』+『模擬戦』)。イコール?」
フェイトに目線をやり、答えてみろとアイコンタクト。数式に当てはめられた友人に、フェイトは一度頭を捻り、次の瞬間には、ぱぁっと顔を輝かせた。
「SLBっ!!」
「正解。それで、さらにヴェルさんをプラスだ」
可愛らしく首を捻るフェイト。彼女は些か残念な頭の持ち主のようで、一度ワンクッション置かないといけないらしい。先ほどよりも時間をかけ、彼女は考える。ああでもない、こうでもない。うんうん唸るその執務官は、本当に管理局が誇るエースなのだろうか。出そうになったため息を飲み込んだヴェルベットは、助け舟を出そうかと口を開いた。
「要するに――」
「お疲れ……?」
しかし、遮られた。やれば出来るじゃないか。口にはしなかったが、この時吐いたため息はそう聞こえた。
「そっか、お疲れなんだ。そっかそっか……」
彼女は、残念そうな表情を浮かべ、俯く。
「……む」
さすがのヴェルベットもこれには揺れたらしく、僅かにその表情が歪む。少なからず罪悪感を募らせたらしい。見せたいものがある。彼女はそう言ってきた。別に自分が何をする訳でもないのだ。少し位なら。僅かばかりの優しさがヴェルベットの中で渦巻く。
「まぁ、少し位なら……」
「ホントにっ!?」
彼女が途端に浮かべた表情は輝かしい。今日は随分と表情の浮き沈みが激しいな。そんなことを思いながらヴェルベットは頷いた。
見ててね見ててねと意気揚々に立ち上がったフェイトは少々移動。自身の愛機であるバルディッシュを片手にポテポテと歩いた。
――デバイス?
疑問に思うヴェルベットだったが口にはせず、何も言わずにただ事の成り行きを見守っていた。決して、面倒臭かった訳じゃない。断じて。
フェイトは自分の周りに物が無いことを確認すると、咳ばらいをし、ヴェルベットに向き直る。
「じゃあ、行くよ。バルディッシュ、お願いね」
『…………』
「バルディッシュ?」
『……Yes sir』
ヴェルベットは驚いた。渋ったのだ。寡黙で忠実なるあの閃光の戦斧が。実直で手堅い、あのムッツリが。こともあろうか、主である心優しい金色の死神の言うことに些細ながらも、反抗したのだ。
しかし、フェイトは気にすることなく、両手を合わせるようにして自身の顔の横に運んだ。もちろん、その手の中にはバルディッシュ。
そのフェイトの行動が合図になったかのように、メロディーが流れ出す。もちろん、発信源はバルディッシュ。
なん、だと……? 思わずヴェルベットは両目を見開く。
そのメロディーの発信源がバルディッシュだったことにも少なからず驚いていたが、何よりもそのメロディーにヴェルベットは耳を疑った。
フェイトはそのまま、タンタンと2回手を叩く。するとどうだろう。フェイトの両手のみがバリアジャケットに変わったではないか。笑顔を浮かべるフェイトはそのままくるりと反転。順に片足ずつ上げ、その度かかとに一度ずつバルディッシュを当てた。タンタン。するとびっくり、足元がバリアジャケットに。そして、再びこちらを向いたフェイトは頭上に両手を上げ、叩く。タタンタンタン。
ヴェルベットはゴクリと唾を飲んだ。
――まさか出るのか、見習い服?
しかし、ヴェルベットの予想は外れ、出てきたのはフェイトが普段身にまとっているバリアジャケット。それを頭からかぶったように見せかけ普通に展開。最後に頭を2回叩き、見慣れたツインテールにしたらポーズを決めた。
「プリティーウィッチーフェイ――ムグッ!?」
フェイトの顔面にクッションが衝突。
「やめろっ!!」
必死な表情のヴェルベットが投げたらしく、彼はフォロースルーを決めたままフェイトにつっこんだ。
「痛い……」
「シャープじゃねぇか!? そんなものどこで教わった!?」
抱き心地の良いクッションもスピードに乗っていれば痛いのか、と身をもって実感したフェイトは涙目。彼女は赤くなった鼻をさすりながら答える――――エイミィ。
「あいちゃんめ……」
気のせいか頭が痛くなってきたヴェルベットはこめかみを押さえ、キョトンとした顔で首を傾げるフェイトに気にするなと言った。
「も、も〜っと! もできるよっ!」
彼の反応の悪さをどこか勘違いして捉えたフェイトは鼻息荒く、自信満々に言った。そして、ヴェルベットの返答を待たず、いそいそと用意し始める。
「バルディッシュ、止めろ」
『Yes sir!』
「sirじゃないし、ハキハキ返事すんな」
そんなやり取りを交えつつ、フェイトは手足を拘束された。自身のライトニングバインドで。
「…………」
無言でヴェルベットを見つめるフェイトの顔は厳しく、不満を表すように頬を膨らませていた。プップのプー。
「とりあえず、バルディッシュに謝れ」
ヴェルベットはこんなことのために余計な機能を追加された気の毒な歴戦のデバイス、バルディッシュに対する謝罪をフェイトに求めた。しかし、彼女はフイッと顔を逸らし、つーんと唇を尖らせ、言った。
「――私は世界一不幸な美少女だ」
僅かにしてやったりな表情を浮かべた彼女の顔に、再びクッションが衝突したのは言うまでもない。
「ドッカ〜ン!? ドッカ〜ン!? が良かったのっ!?」
何が気に食わないの!? と悲痛な声を上げるフェイト。手足をバインドされた状態にも拘らず、器用に立ち上がり、ピョンピョン跳ねてヴェルベットの眼前まで迫ってくる。さすがはエースか。バインドをものともしない執務官に関心しつつも、その執務官にヴェルベットは言った――――何もかも。執務官は一週間ほど部屋から出てこなくなった。
end
(見切り発車はダメだなぁ……)