innocent starter

□Act.3-1
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日曜日。それは今を生きる人にとって、もはやなくてはならない癒しの時間。一日中家でダラダラと過ごすのもよし、街へと繰り出すのもよし。人は皆、日頃に培ってきたストレスを発散させるためにこの日をどう過ごすか、それを試行錯誤しているのだ。

「うーん……」

自室のベッドの上で寝返りをうつこの少女――なのはのように朝寝坊するのもまた日曜日の楽しみ方の1つである。

しかし、彼女は楽しんでなどいなかった。ましては、朝の心地好いまどろみに身を任せている訳でもない。彼女の睡眠の欲求は純粋に疲労からくるものなのだ。慣れない魔法の使用に、人目を気遣っての深夜の行動。それはどれをとっても彼女にとって負担以外の何ものでもなかった。

「なのは、朝だよ」

俯せた状態のなのはの上にユーノが乗り、いい加減に起きるように促す。ユーノもなのはが疲労しているのはわかっていた。わかっていたが、それでも彼女を起こそうと試みた。

「今日は日曜だから……」

しかし、なのはも食い下がる。もう少し寝坊させてくれと。彼女は布団を頭まですっぽりとかぶり直し、拒否の意志を示す。その際にもぞもぞと身体を動かしたため、ユーノは慌てて退避。人にとっての小さな動きも、サイズの小さなユーノにはかなりのダメージとなるのだ。

浅いため息を1つ挟み、ユーノは再びなのはの上に飛び乗り、言った。

「起きないの? なのは。なのはってば」

執拗になのはを呼ぶユーノ。布団の中で一瞬だけ顔をしかめたなのはは、仕方ないとばかりに布団をめくり、仰向けに天井を見つめた。ぼんやりとする思考の中、かすかに聞こえた小さな悲鳴を無視し、なのははあの日のことを思い返す。

ユーノと出会い、魔法の存在を知った日。

自分にはユーノを助けてあげられる力があると知り、初めてジュエルシードを封印した。無我夢中で動いたから所々おぼろげだが、今思うとよく怪我一つせずに済んだなとしみじみ感じる。

非日常に片足を入れてからというもの、目まぐるしいスピードで身体が非日常に染まっていく。なのはは、日常の感覚が段々と鈍ってきているのを感じていた。

しかし、恐くはない。

何故だろうと疑問に思うも、とてもじゃないが検討がつかない。

自然と首から下げられたレイジングハーへと手がのびる。なのははそれを持ち上げ、光に透かすようにそれを見つめた。

『Confirmation.』

誰が言うでもなく、レイジングハートはジェエルシードを自身の周囲に展開。それは、なのはに確認させるかのようにも見える。

くるくると回るジュエルシードの数は5。なのはがユーノと出会ってから1週間で集めた数だ。それが多いのか、少ないのか、なのはにはわからない。この調子なら案外早く集まるかもしれない、そんなことも思った。しかし、そんな簡単に終わらない、と思う自分もいる。

やがて、レイジングハートはジェエルシードを収め、なのはもそれにやや遅れてレイジングハートを手放した。

ぽすん、と脱力した手がベッドに落ちる。見つめるのは天井。考えるのはこれからこと。

「――今日は」

不意になのはの耳に声が届いた。くもぐったようなそれは布団の中からで、ふと視線を送ればもぞもぞと何かが動いているのを捉える。

やがて、ひょっこりと顔を出したユーノ。

「今日はとりあえずゆっくり休んだ方が良いよ」

ユーノの小さな瞳に心配の色が宿る。目に見てとれるなのはの疲労は日を重ねるにつれて濃くなっている。このままでは集め終わる前に彼女の身体が壊れるのは間違いない。ユーノはそう判断した。

「でも……」

なのはが渋る。

「今日は約束があるんでしょ?」

しかし、それ以上は言わせまいと言葉を被せるユーノ。何が何でも今日は休んでもらおうとしているのだ。

「……そうだね」

少し考えたあと、なのははユーノの提案を呑んだ。

なのははゆっくりと身体を起こす。完璧とまではいかないが大方の疲れは抜けているらしい。なのははすんなりと言うことを聞いてくれた身体と若さに感謝しつつ、着替えを始めた。
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