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□……絶対に離さないよ、犬。
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『柿ピー!』
『……何?』
『あのさ、俺ね』
『………だから何……』
『俺………好き』
『………何を?』
『だーかーらー、柿ピーを!!』
『…え』
『そんな変な顔するなびょん…』
『……嘘だろ?』
『何が?』
『さっきの………“好き”って言葉……』
『本当らけど』
『…………本当、か』
『本当だびょん』
『……………………犬』
『何ら??』
『………………実は……………俺も…………………俺…………も……………………………………』
−−−−−−−−
−−−−−−
−−−−
−−
−
「……ピー……」
誰かが俺の近くで何かを言っている。
「………きピー………………柿ピー?」
ああ、なんだ、俺の事を呼んでたのか……。
ということは、さっきのは夢−−−。
ゆっくりと目を開け、視界に入ったのはボロボロの部屋と犬だった。
この部屋には、骸様が俺達に買ってくれたベットと、寒い冬も越せるような布団や毛布がそれぞれ2組ずつある。
今の季節は秋、そのため毛布は部屋の隅にある机の上に畳んで置いてあるままだ。
「……何?」
「べ、別になんも無いびょん……ただ、柿ピーが俺の名前呼んだから何らー?…って思っただけびょん」
「………名前呼んでた?」
「うん。そのあとはずっと『俺も……俺も………』って言ってた」
なんてこった……どうやら、夢の中で言っていたセリフが寝言になって俺の口から出てしまっていたようだ。
俺は少し気まずくなって、犬から目線を反らした。
あのあと、俺は、犬に−−−
「“俺も”、何??柿ピー」
「………」
どうしよう。
そんなこと聞くな。
言いたくても、言えないんだよ、どうしても−−−。
そんな俺の心などお構いなしに、犬は無邪気な子供のように迫ってくる。
「……ねー、柿ピー。教えてびょん」
「…………ッッ!?」
隣にある自分のベットの上で体育座りをしていた犬が、俺のベットに乗って、そして横向きでねっころがったままだった俺の腰辺りにストンと頭を置いた。
「犬、何……」
「柿ピー………」
「………何………」
「あのさ、俺ね………」
心臓がドクン−−−と波打つ。
“あのさ、俺ね”って………夢の中でも−−−。
「俺………俺……………」
何。なんだよ。“俺”が、何……!
早く言ってくれ………心臓が持たないから………!!!
真っ直ぐ正面を向いてはいるが、俺の視界の隅にはしっかりと、前屈みのような姿勢になってこちらを向いている犬の顔が映っていた。
「俺…………………
………………さっき起きるまで、ずっと目玉焼き食い続ける夢見てたんらよ!!」
「………は?」
なんだよ目玉焼きって!!
犬ってここまでバカだったのか……?
“好き”と言ってくれると思ったのは、少し自惚れすぎていたか。
今俺は多分、すごく間抜けた顔をしていると思う。
「目玉焼き、柿ピーが作ってくれたんらよ」
「そ、そうなんだ」
「うん………そんで」
顔をこちらに向けたまま、犬が頭を上げた。
顔が少し赤く見えるのは、俺の思い込みだろうか。
「そんで、俺がね」
「………俺が?」
「…………」
「…………」
沈黙。
今度は犬から目線を反らしてしまった。そのまましばらくの間、犬の顔が更に赤みを増していったような気がした。
「俺が」
「俺が?」
「俺が、
目玉焼き食いながら、柿ピーに“好き”って言うんらびょん」
「………え…………」
今はまた、しっかりと目線を合わせてくれている。
だが、俺は耐えられなくなり、また視線を反らした。
どうしよう。
今、俺の気持ちを言ってしまうべきか。
でも、これは夢の話であって−−−。
「……犬」
「なんら」
「……一つ聞いていい?」
「ん……いいびょん」
そう、これは夢の話。
夢の中で、犬が俺に言った。
それなのに−−−、なんでお前は−−−
「なんでそんなに照れてるの、犬」
「へっ!?……いや………なんでらろーなー………へへ……わ、わかんねーびょん」
「………照れてることは認めるんだ」
「ゔっ………べ、別にそうじゃねーびょん」
「……………」
やばい。どうしよう。
心臓が。
心臓が、破裂しそう。
もうこんなチャンスは二度と来ない−−−。
俺は一度目を閉じてから、また開けた。