山獄
□それぞれの道を行くけど
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春の暖かい日差しが窓から差し込む、3月中旬のこの日。
いつものように机に肘をつき気だるそうにする獄寺と、周囲の友達と楽しそうに会話をする山本。そう、いつもと同じ光景。───ただ一つを除いて。
「おーい、席に着けー」
担任教師が教室に入ってくるや否や、騒いでいた生徒達が素早くそれぞれの席へ戻っていく。
「あー……こほん、そうだな、とりあえず式の前には必ずトイレに行くように」
自らの気持ちを押し隠すかのようにわざとらしく咳払いをして、担任教師はその後も軽く日程を説明すると早々に教室を後にした。
≪卒業おめでとう!!!≫
黒板の落書きをぼんやりと見詰めながら獄寺は小さくため息をついた。
担任教師が教室からいなくなって再び騒ぎだした生徒達と一緒に騒ぐ山本の胸にも、それはかなりの存在感で重くのしかかっていた。
───卒業。
春の優しく暖かな様相は、卒業を迎える者達にとってはかえって冷たく感じられるものである。
その冷たさを、2人もどこか胸の奥底で感じ取っているのだった。