山獄

□大好き
1ページ/2ページ


「ごーくーでらっ!」
「んだよッ!近寄んな野球バカ!」

いつもの帰り道。今日は野球部の顧問が珍しく休んだため、部活が早く終わったらしい。


「なあ、獄寺?」
「んだよ」
「今日泊まりに行ってもいい!?」
「ふざけんな!絶対来んな!」
そう言いつつも、それは口先だけだとお互いわかっている。




「んじゃ適当に夜になったら行くな!」
「……ったく」

















夜7時。静かすぎて耳障りだったので、適当にテレビをつけた。バラエティーだろうか、テレビに映る皆が笑っている。

「来ねーじゃん……」
「獄寺ー!開けるぞ!」
「…………」
付き合い始めたときに合鍵を渡してあったので、別に迎える必要がない。

「おせーよバカ」
「……え?」
「……なんでもねぇ」
「……もしかして、めちゃめちゃ俺の事待っててくれたの!?」
「だからちが……ッ!」
山本が満面の笑みで抱き着いてくる。
心臓の高鳴りが伝わりそうで身を引こうとしたが、野球で鍛えている山本に勝てるはずがない。

「ほんとかわいい!獄寺大好き!」
「……なあ」
「ん?」
山本は相変わらずニコニコしている。だから、見つめんなって……。
「大好きとか簡単に言うなよ」
「え?なんで……」
「あんまり大好き大好き言われっと逆に不安になるんだよ!」
俺はそう言って下を向いた。少し気まずい。

「獄寺?……ごめんな、俺そんな辛い思いさせてたなんて気付かなかった……」
「いい!謝んな」
耐え切れなくなって山本の胸に顔を埋める。
山本のごつごつした手が頭に乗った。


「俺は」
そこで一旦言葉が切れた。


「俺は、絶対獄寺のこと離すつもりねーから」
「……離したらブッ殺す」
「あー、怖い怖い」


俺は山本の笑顔を見るたび、ああ、やっぱり俺はコイツのこと好きなんだな、と思う。






「……好きだぜ、獄寺」
「……俺も」






優しいキス。これで一体何度目になるのだろう。そう考えると、なんだかんだ付き合ってから結構経ってんだな、と思う。


「これからも……ずっと一緒なんだよな?」
「そりゃそうだろ!……なんかこんなこと獄寺から言ってもらえるのすごく嬉しいのな!」
「っるせぇ!」
また山本に抱きしめられる。本当に、コイツに抱きしめられると、暖かくて安心する。

「……大好き」
「あ、さっきは俺に言うなって言っただろー」
「うるせぇ!……なんか言いたくなったんだよ」
「わざわざ口に出さなくたって、わかってるぜ」








幸せだな……と思った。

いつまでも、この幸せが続きますように……。








fin

NEXT⇒あとがき
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ