山獄

□Blood of Love
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「んじゃ今日は寝るか」
「おう」


今日もまた、獄寺の家に山本が泊まりに来ていた。


「電気消すぜ?」
「……おう」


パチッ


部屋が一瞬にして暗くなる。
そのすぐ後に、山本が俺の隣に潜り込んできた。
温かい。


「……獄寺?」
「なんだよ」
「好き……」
「しつけぇよ!早く寝ろ!」
「…………」
やっと黙ったと思い、目を閉じた。その時、裏から山本が抱き着いてきた。

「……なんだよ」
「俺こうしないと寝れなくなっちゃったのな」
「…………」

俺も正直、こうやって山本の温かさに包まれてるときが1番落ち着く。
だが、そんなこと口が裂けても言わない。


裏から巻き付く山本の腕に、そっと触れてみた。
「獄寺?」
「……触っちゃいけねぇのかよ」
「ううん、もっと触って」
「……バカか」
そう言いつつも、俺は山本の手を握った。
ごつごつしていて、でかい手。俺の女みたいな手とは正反対だ。


「……おやすみ」
「まだ起きてたのかよ」



その後、俺は引きずられるようにして夢の世界へ落ちていった−−−。





















急に目が覚めた。でも、まだ暗い。時間を確認しようと携帯に手を伸ばす。1時32分。
「なんだ……まだ寝てから2時間も経ってねぇじゃん」
そう独り言を呟きながら、重い目を擦って再び布団に入った。


「ふわーぁあ……ん?」
あくびをして口を閉じた瞬間、舌に何かが当たった。
「ん?…………痛ッ!!」
舌で探っていたその時、その謎の物体が舌に刺さった。一瞬にして血の味が口中に広がる。
「んだこれ……」

とにかく鏡を見ようと、未だに巻き付いている山本の腕を優しく外し、洗面所へ向かった。





「……うわぁぁぁぁぁぁ!!!んだこれ!!!」

鏡に映る、俺の口……。その口から、なんと……



「なんで牙が生えてんだよ!!」



上から2本、小さいが先が尖ったモノが生えている。それは確かに牙のようだった。
「まるで吸血鬼じゃねぇか……」





「……はぁ。俺どうなってんだ……?」

あのあと悩みに悩んだが、結局牙が生えた理由はわからず、再び布団の中へ潜っていた。

「つかコイツは俺があんなに叫んだのに起きねぇのかよ。バカはいいよな……」

山本は俺のことなどお構いなしにすやすやと眠っている。


「こんな顔見せやがって……美味そうだな」
と言って頬に手を乗せた。

「…………って何言ってんだ俺!?」

ハッとなって手をひっこめる。俺は今、確かに『美味そう』って……

「…………でも確かに美味そうっちゃ美味そうだな」

そして俺は、ふと“コイツを本当の意味で自分のものにしたい”と思った。

「……山本」

山本の首に手を伸ばす。当然ながら温かい。生きている証だ。

「……山本……」

無性に山本が欲しくなった。そして、顔を山本の首に近付ける。いや、正確に言えば、“口を”。
何故そうしたかは自分でもわからない。というより、体が勝手に動いた。

「ああ……山本……俺のものにしてやるよ……」


そして、俺は−−−牙を剥き出し、山本の首に突き刺した。
そしてすぐに抜く。さらさらと血が流れ出す。

「ああっ、山本の血!」

俺は布団にあと少しで落ちそうになった山本の血を舐めた。

「おいしい……山本の血……」

そして、俺はどんどん溢れ出す血を一滴も逃さないように吸う。

「山本……山本は俺のもの……」

吸っても吸っても減らないが、だんだんと山本の呼吸が小さくなってゆく気がした。

「あと……あと少しで……山本は……俺の…………」


いきなり目の前が暗くなり、そしてそのまま俺は意識を失った−−−。





















「…………?」

気が付くと、まだ暗闇の中だった。しかし、カーテンの隙間から月光が漏れて、一部だけ明るい。
そして、ちゃんと俺の腹には山本の腕が巻き付いている。


「……ってあっ……!牙が……ない……」

口の中の感触が、明らかにさっきまでとは違う。
舌で探っても、指で触っても、先程まであったはずの尖ったものはない。

「夢……だったのか……?」

夢にしてはやけにリアルで気分が悪いなと、しかし夢でよかったと思った。まあ、あんなの現実ではありえないが。


「獄寺」
「!?」
不意に山本の声がかかった。
起きていたのかと、驚いて振り向く。

「やっと起きたか」
「起きたかってなんだよ……」
その時、ハッとして目を見開く。


「お前、それ……!」

山本は天井を見上げている。
その月光に照らされた首筋に、あったのだ。





「ああ。そうだ。夢なんかじゃねぇよ」



体が凍り付いた。山本の首に、赤い点が2つ。それは先程の出来事が夢ではないことを語っていた。
でも−−−


「でも、俺には牙なんか……」
「俺についてる」
そう言って、山本は顔をこちらに向けるとニイッと歯を見せた。
「ッ!!」


山本が、怖い。初めてそう思った。
寝る前にこの布団に入ったときの山本とは全く別人だった。


「今度は俺の番な」
「やま、もと……?」
後ずさりしようとしても、裏はすぐに壁があって逃げようがない。

「今度は俺がお前を自分のものにする番」
「おい……冗談よせよ……」
いきなり腕を掴まれ、引き寄せられる。
「やめろ……やめろよ!」
「おとなしく俺のものになればいいんだ。お前は俺だけのものだ」


コイツ……完全にイッてる。
しかし、コイツの力に抗えられるはずもなく、だんだんと山本の顔が首に近づいてくる。

「もう誰にも渡さない。獄寺はもう俺のものだ」
「おい……元に戻ってくれよ……」
「黙ってろ。俺のものになりたくねーのか?」
「絶対今の山本どうかしてるって!!だから、早く目ェ覚ませ……」
「覚めてないのはお前だぜ?獄寺」
「!?……ッ!!」

首に、チクリと痛みが走る。そして、そのあとすぐに血が吸われていくのがわかった。

「や……まも……と……」
「ああ、美味い!獄寺……ッ!もう俺だけのものだ!」


ああ……もう終わったな。
俺はだんだん体から力が抜けていくのがわかった。





でも、薄れてゆく意識の中で、俺は気付いていた。





(なんで……お前が泣いてるんだよ、山本−−−)








fin

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