山獄

□好きだから
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『山本』
「ん?」

獄寺から急に電話がかかってきたのは、部活から帰っているときだった。

「どうした?」
『……』

山本の呼び掛けに何も答えない獄寺。
そんな獄寺の様子を、電話越しに察知した山本は「今から行ってもいい?」と尋ねた。

『……早く来い』

それだけ言って電話を切ってしまった獄寺は、やはりいつもと様子がおかしいようだ。

数秒その場に立ち止まっていろいろと考えてから、山本は獄寺の待つマンションへ走り出した。






*






「獄寺」

インターホンを鳴らし、名前を呼ぶとドアの鍵が開く音がした。

「よっ、走って来…」
「山、本」

獄寺が山本の胸に飛び込んだ。
ドアが開いていることなどお構い無しで山本の胸に顔を埋める獄寺は、泣いていた。

「なんかあったのか?」
「………」

言いながら山本はとりあえず左手でドアを閉めた。
それと同時に、獄寺が山本の首に腕を回して口づけをした。

「ごく……でら…」
「んっ……はぁっ」

貪るように山本の唇に吸い付く獄寺。
いつもの獄寺なら絶対にしないその行動に、山本はただ驚いて受け身になるしかなかった。

「……っは、ごくでら、ちょっと」
「……」

山本が無理やり獄寺の両肩を掴んで引き離すと、獄寺が涙で濡れた目を伏せながら呟いた。

「……お前がボロボロになって動けなくなる夢見た」
「なっ、なんだよそれ」

泣いていた原因は夢か、と少しホッとしたが、それよりも山本は嬉しかった。

「獄寺、お前、それで悲しくなって、俺に会いたくなったの?」
「…ちげぇよ」

あれ、という顔をした山本の、少し土煙臭いジャージをちょっと摘んでから獄寺が言った。

「夢は悲しかったけど、会いたくなったのは夢がどうのこうのじゃねえ。





好きだから会いたくなった」

「ごく、でら」

目を丸くして獄寺を凝視する山本は、しばらく無言だったが急にいつもの笑顔で言った。



「俺も好きなのな、獄寺。ずっと一緒にいたい」



大きな手で銀色のきれいな髪をぐしゃぐしゃっとすると、獄寺も笑った。

「お前のでけぇ手も好き」

「だったら、一日中撫でてやるのな!」

ニコッとした山本を見て、獄寺は頬を赤く染めた。

(今日の獄寺、素直で可愛いのな!)
(…いや、いつも可愛いのな!)


部活での疲れなど一気に吹っ飛んでしまった山本。
それはある晴れた土曜日のことだった。








fin

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