夜の闇と月の光

□穏やかな眠りに必要なもの
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「たっだいまぁ!黒珠

突如飛び込んで来た長い白髪の少女は、その部屋の主に背後から飛び付いた。



ここは暗号情報解析室。
通称、暗解。職務上、そこは当然、機密書類がいっぱいで、入室はかなり制限されているし、厳重な結界も張ってある。
しかし、飛び込んで来た少女には、あまり関係なかった。

「んあ?おう、珊瑚。帰ってたのか」

「おかえりなさい、珊瑚さん」
「長期任務、お疲れ様です」

迎える方も馴れたもので、厳重な結界がある筈の部屋に瞬身で飛び込んでこようが、気難しい彼らの長に抱きつこうが、気にしない。
なにしろ彼女がこの部屋に出入りするようになって、はや数年。
始めは彼らの長に鍛えられている、単なる新人暗部の筈が。
あれよあれよという間に強くなって、今では暗部全体を総括する総隊長、の右腕。
しかしながら肝心の総隊長はその職務を右腕の総副隊長に委せきり、自分は暗部各部署でデスクワーク。
大概の暗部たちは、彼女こそが我らが総隊長だと信じて疑っていない。
ちなみに今、彼女に抱きつかれている男こそ、本来の総隊長。
つまり厳密に言えば、彼は彼らの長ではなく、前長であり、ここにいるのはおかしいのだ。
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