悠かな時の狭間で

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豹変したナルトに。

漂々としたシカマルに。

何より部屋の雰囲気に。



凍り漬いていたけれど。



けれど目の前で展開されている会話を、そのまま聞き流す訳にはいかないわ!!

だって放っといたらそのまま説明もされずに、部屋から放り出されそうなんだもの!



「何なの何なの何なの、今の会話はあぁぁああぁあ!!」

「ナルトォォオ!あんた性格違うわよおぉぉお?!」

「…なんでシカマルはついていけてるの………」

「ドベが結界って封印って何の話だぁ!!」

「ナルト、自分のお父さん誰だか知ってたの?!って言うか先生の遺したモノって何?!数年前、先生の家が突然消えたのってナルト?!」

「シ、シカマルの手がぁ!か、影に!影に喰われて?!って注射器でたぁ?!?どうなってんだ、それえぇえ!?」

完璧に錯乱していて話にならない。

子供たちがポカンとして見ている横で、共犯者たちは顔を見合わせた。

三代目は忍鳥にくくり着ける手紙を書くと目で主張し、シカマルは手にした医療器具を示して無言で自分の仕事を進める。

必然的にナルトしか居ない。

「………めんどくせぇ」

嫌そうにため息を吐いたナルトに、シカマルと三代目は揃って突っ込んだ。

「「お前がキレたんだろ(じゃろ)」」

ナルトはもう一度嫌そうに嘆息してから、スゥと息を吸うと、

「うるせえ!!!」

思いきり吐き出した。

三代目とシカマルはきっちり防音の結界を張っていたし、子供たちはちゃっかり耳を塞いでいた。
もしかすると慣れているのかもしれない。
シカマルは密かにまだ見ぬ未来を思って、苦笑した。

「………ガキみたいにわめくな。お前ら、忍だろう。
質問は今なら特別に、一人一個まで受け付ける。
順番に、よく考えて口にしろ」

ナルトの纏う威圧感に気圧されて、混乱する。

「………どういうことなの」

耐えきれずにいのが口を開くが、ナルトは一瞥もしなかった。

「質問は簡潔に」

誰からともなく、ごくりと息を呑む。
本気で考えて訊かなければ、決して望む答をくれない。
今のナルトはそれを悟らせるだけの、冷徹さを纏っていた。

「…ナルト。今の、ナルトが、ナルトなの」

サクラが震える声を溢すのに、ナルトは感情のない視線を向けた。

「それが、本当の、ナルト?」

「…そうだな。だいたいこれが素だ」

静かに答える。

「……じゃあ、普段は…」

「アレは表ように用意した、“うずまきナルト”だ」

「用意…?」

目を見開いた。

「な、なんでそんなこと?!」

「質問は一人一個」

慌てて問うたサクラは、ピシャリと遮られて、グッと詰まる。
それをいのが引き継いだ。

「感じ悪いわね!じゃあそれはあたしが訊くわ!
なんでそんなことしてんのよ?別にそのまんまで良いじゃない」

「ふぅん?それでいいのか?」

揶揄するようにチロリと眺めやられて、いのはカッと頬を高潮させた。

「うるさい!いいのよ。コレはあたしの質問よ!」

「…オレ自身の安全と、里の平穏の為に」

あっさりと答られて、拍子抜けする。
そしてその答の意味が分からない。

「どういう意味…?」

「そのままだ。オレが表に出るにあたって、その必要があった。それだけ」

「だから!なんでそんな必要があんのよ?!」

「それを説明するには、里の機密事項に抵触する。お前はまだ、条件を満たして居ない」

「条件?」

「そうだ。せめて中忍以上である事。もしくは自力で気付く事。お前はどちらも満たしていない」

「なによソレ!下忍だからダメだって言うの?!」

激昂するいのに、ナルトは嘆息した。

「お前もう一度アカデミーからやり直すか?
機密事項だと言っただろう。
下忍以下には漏らさない。
それは里が掟として決めた事だ。
“掟に反した者には死”
それが忍里の掟というものだろう」

その通りだ。
上が機密と定めたなら、その決定に従わねばならない。
いのたちは未だ未熟とは言え一応、下忍という階級に属している。
上が一介の下忍には知らせぬと決めたなら、それは知ってはならないものなのだ。

悔しそうに歯を食い縛ってうつ向き震えるいのを横に、けれどサスケが声を上げる。

「ちょっと待て!じゃあそのちょんまげはなんだ!?
ソイツも下忍だろうが!!」

睨みつけるサスケに、ナルトは呆れた顔を隠さない。

「お前、話ちゃんと聴いてたか?他に“自力で気付く事”って言ったろ。
自ら気付いた者は、その限りじゃない。
シカマルは立場的にも、知ってなきゃいけないしな」

「なんだと?!どういう意味だ!」

益々興奮するサスケに、ナルトは冷めた視線を向ける。

「質問は一人一個だと言った筈だ。
聴く耳がないのか、聴いた事を理解する能力が無いのか、どっちだ?
これ以上無駄を続けるなら、質問打ち切るぞ」

冷淡に言うナルトに、サスケはカッと血を昇らせたが、サスケが口を開いたのを遮るように、チョウジが前に出た。

「待ってナルト。ぼくも訊いて良いかな」

ナルトは無言で先を促す。

「………ナルトとシカマルの関係は…?」

ゴクリと息を呑んで言ったチョウジに、ナルトは愉しげに瞳を綻ばせた。

「さすがだな、チョウジ。
この中では、お前が一番、勘が良い。観察眼と洞察力もかなりのものだ」

「そ、そう?ありがとう?」

突然誉められて、チョウジは目を白黒させたが、ナルトは構わず続ける。

「ああ。一つの質問で、自分の知りたい事を出来るだけ引き出す言葉選びをする。
それも大事なことだぞ」

にっこり笑ったナルトにチョウジは、いや相対していた6人全員が目を見張ったが、ナルトは構わなかった。

「オレとシカマルの関係、ねぇ。そうだな。相棒、かな」

「相棒…?」

「ああ、他にも状況によって色々あるが。一番端的に表すなら、相棒だな」

未だ目に笑みを残して言うナルトに、チョウジは誘われている事に気付く。

「………その“色々”って?何があるの?」

乗ってきたチョウジに、ナルトの笑みは益々深くなる。

「そうだな、―――友人。上司と部下。共犯者。運命共同体?いや、これはちょっと違うかな――」

視線を少し遠くに投げ、己の中を探るようにいくつか並べて、ナルトは悪戯に瞳を煌めかせた。

「―――なぁシカ、恋人ってのも付けとくか?」

「「「「「「はぁ?」」」」」」

「やめとけ。今のコイツらじゃあ、シャレになんねぇ。本気にされるぞ。
つーかやっぱあの噂流したの、お前か」

周囲の驚愕をよそに、シカマルは一刀両断。続けて憮然と言い募った。

「しょうがねぇだろ。アイツら、しつこ過ぎんだよ。
言っとくがオレが言い出したんじゃねぇぞ。向こうが勝手に納得して去って行ったんだからな」

「チッ。おかげで俺はお前の分まで、害虫退治だ。くそめんどくせぇ」

何の話かいまいち掴めないが、ぼやいたシカマルの手にはいつの間にか3本の血液サンプル。
子供たちがポケッとナルトと下忍たちのやりとりを見ている間に、採血は終わったようである。
何気に注射跡は掌仙術で消し、今度は一本ずつ髪の毛を貰っている。

「まぁ恋人は冗談だけど、だいたいそんなところかな」

さりげなくナルトがまとめに掛ったのを、今度はアスマが慌てて遮った。

「まて!上司と部下ってなんだ!?お前たち下忍じゃないな?階級は?何故、下忍をやっていた?!」

冷静さを失っているアスマに、ナルトは嘆息する。

「…アスマ……、もう検討はついてるんだろう?ホントにそれでいいのか。チョウジに出来た事だぞ。マジで一人一個しか答えねぇからな。まぁ本当にそれが訊きたいってならいいけど」

呆れたように言うナルトに、アスマはグッと詰まって唸る。

「……………確かに、検討…は着く。着いたが、それは推測でしかない。
それにお前の検討は着いたが、シカマルは?まさかお前が巻き込んだのか」

迷うように視線をさ迷わせ、最後に疑わしげな顔でナルトを睨んだ。
だがそれに反応したのはナルトではなく。

それまで口は挟んでも顔も上げずに自分の仕事をしていたシカマルが、静かに顔を上げて振り返る。
その顔には、なんの感情も浮かんでいなかった。
小揺るぎもしない漆黒の瞳に見据えられて、アスマはたじろいだ。

「シ、カマル…?」

呼ばれた事に応えるように、その唇がゆるゆると開き、音を発っそうとした、その時。

「シカ」

ナルトが遮った。
シカマルはナルトに振り返り、その首が横に振られるのを見て僅かに顔をしかめる。
だがもう一度だけアスマを一瞥し、それきり興味を失ったように顔を背けた。

「…オイ?」

その、無言でのやりとりにアスマは不安に駆られる。
何か取り返しのつかないことをしでかしてしまったような…。

(あ〜あ)

ナルトは内心で嘆息した。

「それで?結局、質問はオレたちの階級でいいのか。それともシカマルのことか?」

(シカの人間嫌いが助長されちまったよ)

元々シカマルは基本的にヒトが嫌いだ。
幼い頃から遭っていた人災のせいだろう。
一部の例外を除いて、統べからくヒトという生き物は関わるとロクなことにならない。
ナルトと出会って、その傾向は益々拍車が掛った。
特にこの里の大人はほとんどが嫌悪の対象だ。
ナルトと出会った事で嫌悪感はいや増し、それでもナルトと共に少数の例外を見極めてきた。
シカマルと出会ってから、ナルトの人間不信が僅かでも和らいだことを思えば皮肉でしかないが。

そしてアスマは、シカマルの嫌悪対象からは微妙に外れた位置にいた。

彼は本人に黙って勝手にIQテストを行うなどという厄介事を起こしたことでシカマルの不興を買い。
途中で気付いて数値を下げたとは言え、充分驚異のIQ200という数値を叩き出した天才児を排除しなかったことで好感を得た。

それが今、ナルトを悪し様に(という程でもないが)言ったことで、株が大暴落したのだ。

シカマルはナルト以上に、ナルトへ嫌悪を示す里人に容赦がない。
アスマの言葉はナルトへの嫌悪からというよりは、彼が上層部の糞爺どもとは思考回路を異にしているからこそ、シカマルの“理由”に思い到らず、不信を募らせただけだったのだろうが。

「オイ?!なんでシカマルを遮る?ナルト!お前いったい…」

シカマルに言葉の刃でメッタ斬りにされる処を、ナルトに救われた男はそんなことに気付かない。

「今はオレが話す担当だからね。主観が入り混じっちゃややこしい。
それで結局何が訊きたいんだ。質問は?」

一度失った信用を取り戻すのは、関係を一から作り上げるよりも難しい。

(ゴシューショーサマ)

たった今、元から少なかったシカマルからの好感を失ったことさえ、未だ気づいていない男に、ナルトは密かに同情した。

「…………シカマルの事を訊いたとして、それをお前が答えるのか?」

幾分落ち着きを(無理やり)取り戻し、慎重に伺ってくるアスマに、ナルトは首を傾げた。

「んん?そりゃあ応えれる範囲で答えるけど?
ああでもプライベートの暴露をする気はないから。
ものすごぉく当たり障りのないものになるかな?」

「じゃあいい。それは本人に訊く」

「うん。それが正解だと思うよ。まぁ答えてくれるかは別だけど。
んじゃ質問、終わりでいい?」

「いやお前たちの階級……違うな。所属部署だ。
正確な所属部署を残らず答えろ」

「ぇえ?ぜんぶ?ちょっと欲張り過ぎじゃね?」

「どこがだ。一つに絞れと言ったのも、一つで出来るだけ情報を絞り取れと言ったのもお前だろう」

硬い顔で言うアスマに、ナルトは嫌な顔をした。

「そうだけど……まぁそれも正解」
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