otherA

□DNA
5ページ/7ページ

シトシトと纏わりつくような雨。
ジョットはひとり、暗闇の中をびしょ濡れになりながら走っていた。
ハァハァと荒い息を吐きながら、ただただ必死に。
走りすぎて膝はガクガクと震えるし、肺だって破裂しそうだ。
それでも走る事を止められない。
だって止まったら捕まってしまう。

何に?
自分は何から逃げようとしてる?

立ち止まって確認しようとするけれど。
背後に迫ってくる気配に怯えて、再び走り出す。
そして気付く。

これはいつも見る悪夢だ、と。

夢だと自覚しているのに。
浅い眠りのはずなのに。
目を覚ます事が出来なくて、ひたすら何かに怯え、逃げ惑う。
そしてうなされながら朝を迎えて、ようやく目覚める頃には全身グッショリと汗だくになっている。
最近、頻繁に見る夢だ。
今宵もまた朝が来るまで延々と走らなければならない。
そう思っていたのに――。

冷え切った頬にふいに感じる温もり。
その温もりに意識が引っ張られて――ゆっくりと目を開ければ。
そこはいつものボンゴレ城の自分の寝室。
けれども眠る前の景色とひとつだけ変わった事がある。

「アラウディ・・・・」

また窓から侵入したらしいアラウディがベッドに腰掛けていた。

「うなされてたね」

言いながらジョットの額に浮かんだ汗を指で拭うアラウディの眉は、不機嫌に顰められている。
職業柄か元々の性格なのか、いつも無表情の鉄仮面。
ジョットを抱いている時ですら表情ひとつ変えない男。
そんなアラウディが珍しく不機嫌な表情を浮かべている事に、ジョットは驚いた。

「どうした?何を怒ってる?」

だから心配になって聞いたのに。

「またアイツなの?」

質問したのはこっちなのに、それを無視して逆に聞いてきた。
その問いにジョットは思わず身体を強張らせてしまう。
アイツ。アラウディの言う『アイツ』が誰の事を指しているかなんて聞かなくても分かる。
ボンゴレ霧の守護者であるデイモン・スペードの事。
そしてそれは図星なのだ。
気まずそうに長い金色の睫毛を伏せたジョットに、アラウディはひとつタメ息を吐くとベッドに潜り込んだ。

「ちょっ、アラウディ!」

「朝までまだある。眠りなよ」

そして強引にジョットの身体を抱き込んで、眠る体勢に入ってしまった。
アラウディの胸に顔を埋める形になって、途端に香った彼の香りにホッとしてしまう自分がいる。
悪夢にうなされ、ドクドクと早鐘を打っていた鼓動がだんだんと落ち着いていく。
この半年で、アラウディはすっかりジョットの精神安定剤代わりとなってしまった――。


――事の起こりは半年前。
アラウディが土産にマカロンを持ってきてくれた日から一週間後の出来事。
ジョットはあのマカロンを1日1個ずつ、就寝前のお茶の時間に食べていた。
そして最後のショコラマカロンを食べ終えたその日、事件は起きた。


ボンゴレ城奇襲事件。


後にそう呼ばれる事になる事件だ。
ジョットの意向で最低限の警備しかしていなかったボンゴレ城に、敵対勢力が奇襲をかけてきたのだ。

飛び交う弾丸。
所々で起こる爆発。
響き渡る怒号と悲鳴――。

混乱の中、ジョットも他の守護者達と共に応戦し、制圧した。
時間にすればほんの1時間程の狂乱の時間。
けれどもその被害は大きくて。
城の一部が大きく崩壊し、重軽傷者多数、死者3名。
その3名の中に―――エレナがいた。

快活で聡明で美しい人。
デイモンが自分の命よりも大切にしていたこの世でただ1人。
彼の永遠の恋人。それがエレナだった。
ジョットにとっても自分を「ジョット兄様」と慕ってくれた、可愛い妹のような存在で。
仲睦まじい恋人同士の2人を微笑ましく見守っていたのに。
2人が結婚して幸せな家庭を築くのを、みんな楽しみにしていたのに。
それは叶わぬ夢となってしまった。


「貴方の優しさがエレナを殺したのです・・・!」


自分に向けられたデイモンの悲痛な叫び。
あのプライドの高い男が人目も憚らず、エレナの亡骸を抱き締めながら泣いている。
その姿に、ジョットはかける言葉もなく、ただ立ち尽くすしかなかった――。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ