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□十年愛
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深夜の街を1人歩く。
住宅街の為か、さっきから人っ子ひとりいない。
いくら深夜の住宅街とはいえ夜遊びする子供の1人や2人はいそうなものだが、この街にはそんな勇気のある者などいない。
『風紀を乱した者には即制裁』
住人達にはその暗黙の戒律が嫌という程、刻み込まれているから。
それがこの並盛という街だ。


目的地に着いて塀を飛び越え中に入る。
ここに足を踏み入れたのはあの日以来、十年ぶり。
かつて毎日のように朝から晩までを過ごし、守り続けてきた場所――並盛中学校だ。
なんだか感慨深い。
ゆっくりと歩を進めると、塀沿いに植えられている桜の木の根元に地面を掘り、また埋めた跡がある。
恐らく昼間彼らが掘り起こしたのだろう。
それを横目で見ながら裏庭へと向かった。

裏庭にポツンと1本だけある大きな桜の木。
最終目的地に着いたものの、何をするでもない。
木に寄りかかって、つい右手中指の付け根を擦る。
いつまでも直らない、すっかり染み付いてしまった僕のクセ。
僕はここに来てどうしようというのだろう。
珍しく感傷にでも浸りたかったのだろうか。
自分の事なのによく分からない。
懐かしいこの感情。
あの頃はこの感情の正体すら分からなくてイライラしたものだ。

ここは十年前『彼』に別れを告げた場所だった―――。


忘れたくてずっと封印していた『彼』の記憶を思い出させたのは、三日前に並盛神社地下に造った僕のアジトに訪れた1人の男。
笹川了平だった。
彼とは中1の頃からの知り合いで定期的に僕に勝負を挑んでくる、鬱陶しいほどに真っ直ぐで熱い男。
そして大人になった今でもその習慣は変わらない。
ただし、20歳を過ぎた頃から勝負は酒盛りへと変わっていった。

「お前は友人もいないし、同窓会にも参加せん!
したがってこの俺がささやかながら同窓会を開いてやる!」

そう言って大量の酒を持ち込んで、草壁を交えて酒を酌み交わす。

三日前もそうして笹川了平はやって来た。
けれども最初から様子がおかしい。
いつも思った事を口にし、行動する彼にしては珍しく何か迷っているように見えた。
しかも草壁抜きで2人で飲みたいと言う。
飲み始めればいつもよりも口数が少なく、いよいよもって様子がおかしかったが、僕からワケを聞いてやる義理も無いので放っておいた。
小1時間ほど経つと、やっと腹を決めたといった顔で笹川が僕を見る。

「雲雀、沢田の事だが・・・」

沢田。
その名が彼の口から出てくる事は予想していた。
予想していたがやはり動揺せずにはいられない。
その名を聞くのは実に十年ぶりなのだから。
この十年笹川も草壁も、もちろん僕もその名を口にした事はない。
まるで禁忌のように。

「『彼』がなに」

なるべく平静を装って聞く。

「帰ってくるんだ。十年ぶりにこの並盛に」

十年前この並盛を出て行った『彼』が帰ってくる。
その言葉はさっきよりも僕を動揺させた。

「・・・・・なぜ」

少し声が震えていたかもしれない。

「同窓会があるのだ。卒業式の日に埋めたタイムカプセルを開ける為のな。
それに参加するんだ」

ああ、そう言えばそんな物をクラス皆で埋めたと言っていた。

「なぁ、雲雀。いい機会だ。沢田に会ってみないか?
そして―――ボンゴレに戻ってこい」

そう、今の僕は雲の守護者でもなんでもない。
ボンゴレとは一切関係の無い人間だ。

『彼』、沢田綱吉に雲のリングを返したあの日から・・・・。
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